本連載は、東京工業大学特命教授・名誉教授、先進エネルギー国際研究センター長である柏木孝夫氏の著書『超スマートエネルギー社会5.0』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、ドイツのエネルギー戦略を参考にした、政府主導の「日本版シュタットベルケ」について説明します。

「電気は電力会社に任せておく」時代は終わった

筆者の著書『超スマートエネルギー社会5.0』の「第1章 大局から見るエネルギー地産地消」では、地産地消システムの開発に必要な改革を紹介した。すなわち、①エネルギーシステム改革、②統合型インフラ革命、③デマンドサイドのデジタル革命、④自治体の意識改革、⑤公共事業改革、⑥地銀改革、⑦都市とエネルギーの一体化改革――の7つである。

 

総務省が進める自治体主導の分散型エネルギー事業は、まさにこの改革に沿った内容といえる。

 

その走りが2012年末に発足した第2次安倍内閣の最初の総務大臣・新藤義孝氏が手掛けた「地域の元気創造本部」である。この有識者会議で筆者は、エネルギーに関する提言を述べた。

 

筆者が呼ばれたきっかけは、旧民主党政権時代にさかのぼる。当時、野党だった自民党の部会で電気の話をした際、その説明がわかりやすかったらしく「エネルギーは、あの先生だ」と声をかけてもらえたようである。

 

どんな話をしたのかというと、再生可能エネルギーの導入拡大と安定供給についてである。

 

「電力系統の電圧や周波数が不安定になるということは、人間でいえば、高血圧や低血圧になるようなもの。太陽光や風力のような変動性が大きい不安定な電源が系統に入り、周波数が狂うことは、不整脈と同じ状態である。再生可能エネルギーは重要だが、何らかの形で不安定性のものを安定化した電源に変えるよう、系統をシステマチックに捉えていかなくてはならない。夜は太陽光を使うわけにもいかないので、蓄電システムや水素といった蓄エネルギー技術をうまく考えていく必要がある」

 

と言った内容を説明した。

 

こうした経緯で参加することになった「地域の元気創造本部」の有識者会議では、新藤氏から「エネルギーの分野で国土の充実・強靭化を図り、かつ地域の元気を取り戻すには、どういうことが考えられるか?」と問われ、筆者は次のように助言した。

 

「エネルギーは、生活と産業の基盤である。しかし、エネルギー資源を輸入に頼っていては、為替レートの変化を受け、生活や産業を脅かしかねない。今後、電力システム改革が進み、電力自由化で家庭部門の小売りまで自由化された際、地域エネルギーを活用することで自給率を上げることができる。地域エネルギーをうまく取り込めるようなコミュニティを作っていくことは、スマートコミュニティそのものなのではないか。地域エネルギーの活用で地域内にキャッシュの流れができれば、民間投資を喚起できる。これが元気の創造になるのではないか」

 

また、東日本大震災の直後であったので、災害時の電源確保についても提言した。

 

「自治体の市庁舎などに非常用電源や蓄電設備がないと、停電時に住民管理ができなくなってしまう。すぐに復旧すればいいが、大規模災害では難しい場合もある。しかし、災害時に住民管理ができないというのは、文化国家として問題ではないだろうか。少なくとも通常時に使用している電力の3割程度の常用・非常用の兼用電源は確保しておくべきである。あるいは蓄電システムとして確保することを義務づけるくらいしないと、国家は強靭化できない」

 

「電気は、電力会社に任せておけばよい」という時代から、最低限は、自分たちで電源を確保しておく時代に移った。つまり、分散型電源が一定の規模を占める時代に入っていくことになる。

 

そうした観点から国土強靭化や地方創生政策を考えることが重要である。

地域エネルギーの活用・事業化には民間企業の力が必要

新藤氏が手掛けた分散型エネルギー事業をさらに発展させたのが、高市早苗・前総務大臣である。すでに「自治体主導の分散型エネルギーインフラプロジェクト」を実施している。

 

 

審議会には、大臣はじめ副大臣、政務官、大臣補佐官など主要幹部が毎回総出で出席していた。市町村の首長が取り組みを発表し、傍聴席には、スーパーゼネコンや地域のゼネコン、ガス会社、電力会社の関係者がずらりと並ぶ。

 

総務省の本気度は、「日本版シュタットベルケ」モデルの誕生を予感させた。

※シュタットベルケとは、都市公社のように、自治体が主導するエネルギー供給会社のことである。

 

しかし、総務省だけの取り組みでは限界があるので、資源エネルギー庁や林野庁、環境省とでタスクフォースを組んだ。なかでもエネルギーのプロである資源エネルギー庁は、地産地消モデル事業に2016年度には45億円、2017年度には63億円もの予算を付けた。

 

筆者が理事長をしているNEPC(一般社団法人新エネルギー導入促進協議会)でも資源エネルギー庁からの委託事業として、地産地消のモデルケースへの補助制度があった。

 

しかし、当初はFS(事業可能性調査)しか行っておらず、ある地域で自治体電力をつくるとか、小水力発電に取り組むとか、各地で似たようなプロジェクトが散見していた。

 

バラバラに進められていたプロジェクトがNEPCの中に100程度あり、そのうち自治体が主導しているプロジェクトは30ほどあった。この30ほどのプロジェクトをタスクフォースの中に組み込んでいった。

 

環境省の補助金についても同様に、自治体主導のものはすべて総務省のプロジェクトとして一体的に扱うこととした。4省庁の地産地消モデル事業を総務省の事業とし、一体的に扱うインター省庁体制としたことは、非常に良かったといえる。

 

そして、のちに国土交通省も加わることになる。書籍の巻末付録に、その詳細を示してあるので参照されたい。

 

各取り組みでは、自治体主導のコンソーシアム設置が重要になる。事業のすべてを国が補助することはあり得ない。地域エネルギーを活用し事業化するには、民間企業の力が必要である。ここで、筆者が念頭に置いていたのがドイツのシュタットベルケである。

超スマートエネルギー社会5.0

超スマートエネルギー社会5.0

柏木 孝夫

エネルギーフォーラム

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