今回は、自治体主導のエネルギーインフラ構築の実例を紹介します。※本連載は、東京工業大学特命教授・名誉教授、先進エネルギー国際研究センター長である柏木孝夫氏の著書『超スマートエネルギー社会5.0』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、ドイツのエネルギー戦略を参考にした、政府主導の「日本版シュタットベルケ」について説明します。

再生可能エネルギーの普及に積極的に取り組む鹿児島県

2016年10月、エネルギーに関する鹿児島県のシンポジウムで講演する機会があった。鹿児島県は、再生可能エネルギーに対して積極的に取り組んでおり、また薩摩川内市には川内原子力発電所もある。原子力から再生可能エネルギーまで、まさに百花繚乱のエネルギーシステムを持っている数少ない県である。

 

ただし、このシンポジウムのテーマは、原子力ではなく、再生可能エネルギーをどうやって普及拡大させていくかを考えるものであった。

 

鹿児島県では、総務省の分散型エネルギーシステムのFS事業で、4つもマスタープランを出している。

 

これまで説明してきたように、総務省・経済産業省・林野庁・環境省・国土交通省の5省庁連携で、自治体主導による地域エネルギーシステムの検討を進める事業である。全国ですでに40ほどのマスタープランが出ており、そのうち4つが鹿児島県である。

 

九州新幹線が開通したことによる活性化も大きいだろうが、さらに分散型エネルギーシステムにも、これほど積極的な自治体はほかにない。

 

鹿児島県でマスタープランを出しているのは、いちき串木野市、西之表町、長島町、白水町である。いちき串木野市や西之表町では、木質バイオマスを活用し、ボイラーコージェネレーションや吸収式冷温水機、熱導管、自営線といったインフラ投資を進めている。

 

長島町では、廃棄物系のメタン発酵バイオマスの活用が始まっている。長島町は、焼酎かすなどの廃棄物の処理方法としてバイオ発酵に着目した。その際に出るガスを利用し、ガス管に自営線を組み合わせるといった非常に斬新な事業にチャレンジしている。筆者が必要性を主張するガス&ワイヤーを実現する取り組みである。

 

また、白水町では、バイオマスでの熱電供給にチャレンジする。鶏ふんを主体とする廃棄物系バイオマスを活用する計画である。鶏ふんをメタン発酵でガス化し、ガス導管によって地域の複数エリアに集積するバイオマス・コージェネレーションに供給する熱電併給事業である。

 

この場合、ガスは鶏ふん由来のものだから、専用のガスパイプラインを敷く。通常のガスパイプラインに混ぜてしまうと組成の変動などの問題があり、うまくいかない。また、パイプラインの白地地域でプロパンガスと混ぜて供給しようとすると、熱量がおかしくなってしまう。鶏ふん由来のガスは、使った量だけ、その工場に供給し、発電に回している。専用導管ならば多少熱量が不安定でも利活用できるのである。

 

このように、鹿児島県では、地域エネルギーを最大限活かそうとする計画が着々と進んでいる。

総額11億円で立ち上げた「かごしまグリーンファンド」

そのために、県は総額11億円の「かごしまグリーンファンド」を立ち上げた。投資形態は株式や社債などで、運営母体は「鹿児島ディベロップメント」という企業が担っている。

 

ファンドへの出資者には、非常に良いメンバーがそろっている。県のほか、鹿児島銀行や南日本銀行、一般社団法人グリーンファイナンス推進機構、鹿児島ディベロップメントなどで、とりわけ地銀が2社入っている点が素晴らしい。

 

エネルギー絡みのインフラに公的資金を入れて、今までにない形のガスパイプラインを整備することができる。これまで都市ガスやLPガスのパイプラインは、すべて民間の努力で需要をつくり、延伸していった。

 

しかし、白地地域も多く、今後、新たなインフラ整備が必要になる。ガスパイプラインなどは、いまだ日本全体の5%程度の面積しかカバーできていないが、その整備は、民間だけでは限界がある。

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