2020年に向け、エネルギーインフラ整備事業が活発化
自治体が絡んだご当地新電力は、浜松新電力や鳥取ガスが立ち上げた「とっとり市民電力」など、すでに多数出てきている。さらに総務省は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、こうした自治体主導型の地域エネルギーインフラ整備事業を100カ所で実施することを目指している。
2018年現在、全国で43件のモデルが選ばれており、うち北海道下川町、青森県弘前市、岩手県八幡平市、兵庫県淡路市、長崎県対馬市の5件の事業が2016年に着工した。この5地域は、それぞれ特色をうまく活かしながら、地域エネルギー会社をつくっている。各事業の特徴は、巻末の付録を参照してもらいたい(本書籍を参照)。
自治体の首長がエネルギー問題に造詣が深いと、電力自由化を踏まえてローカルエネルギーを取り込み、その地域の人たちに安くエネルギーを提供できるようなサービスイノベーションを考える。こうした動きが町おこしにつながっていくのではないだろうか。
スマート&マイクログリッドを活用した新たなエネルギーサービス事業者として期待が持てる事業体としては、パイプラインを持っている都市ガス事業者や、プロパンガス事業者、ケーブルテレビなどだろう。特にプロパンガスの事業形態は、分散型そのものである。
ガス事業からも、今までにない新しいビジネスモデルが出てくるのではないかと期待している。昨今の自由化でガス事業者も電気の小売りができるようになり、ガスと電気の両方を売るようになった。
例えば、「電気は、この量まではトータルいくらです」とか「熱は、何ジュールまでならトータルいくらです」と、一定料金でのサービスを提供する。これらのデータは、すべてスマートメーターにセットすれば自動的に調整してくれる。
その際、エネファームをリースにするなど、ガス販売とエネルギーサービスを組み合わせると、ESCO(Energy Service Company)モデル(機器の導入により達成される省エネルギー量を保証、その省エネルギー量に相当する低減料金内でリース料を一定期間設定し、投資を回収するシステム)にもなる。
「これまでは、電気と熱、ガスの使用料金が合計2万円でしたが、このプランにすれば、同じ使い方だと1万5000円で済みます」といった合理的なプランができれば、煮炊きのガス釜にIH(電磁調理器)を付けたような調理器具の開発・販売もできるかもしれない。
エネファームの価格は、2016年には140万円程度であったが、2016年度から2019年度まで年間15万円×4年間、トータルで60万円の補助金を入れて、2019年には、家庭用実質価格を80万円程度にしようという計画を推進している。導入コストを80万円まで低減できれば、余剰電力を売らなくてもペイバックタイムは6~7年で済む。
自由化で余剰電力の売電が可能になれば、さらにペイバックタイムは短縮できる。実質負担額80万円のうち半分は、売電価格で取り戻せるようになるだろう。ESCO型のエネルギーシステムは、余剰電力価格が高いときに売電することでペイバックタイムが短くなる。
例えば、キロワット時が50円のときに売ると、4時間で200円になる。1カ月で6000円、年間で7万円にもなる。高い値段の際に売電していけば、これまで7年だったペイバックタイムを3年ぐらいに短縮できる可能性もある。
また、エネファームを入れたユーザーに、「必要なときには、デマンドレスポンスをかけさせてもらう」という契約にすると、ピーク時など電力が必要なときにより融通しやすくなる。自治体主導の事業体なら住民管理をしっかり把握できているから、融通もスムーズに行えるだろう。
「ガス&パワーモデル」が日本のグランドデザインに!?
アナログ時代に自由化した欧米に対し、日本はデジタル革命、IoTの時代に初めて電力全面自由化の道を歩み出した先進国である。
こうしたタイミングで自由化した日本は、実に多様なエネルギーサービスの提供が可能になる。ESCO型のエネルギーサービスで、デマンドサイドにエネファームなどの分散型が入り、太陽光とダブル発電にする。
こうした仕掛けで、きめ細かなサービスの提供ができる地域エネルギー会社が、今後のソリューションモデルになっていくだろう。いずれ、ガス&パワーモデルが日本のグランドデザインとなるはずである。
大きな電力会社は、きめ細やかなサービスの提供が苦手な事業形態である。スマートメーターの導入が進み、デマンドサイドがデジタル化していくと、リモートスイッチ&センシングとなるので、電力会社が顧客先に出向く必要が薄れていく。ひいてはBtoC(企業と消費者の取引)が弱くなりかねない。
一方、BtoCに強いのはガス会社である。ガス会社は、保安・点検業務で各家庭をまめに訪問する。そのとき、顧客とフェイス・トゥ・フェイスで話ができる。こうした顧客接点の機会は、今後はとても重要になってくるだろう。BtoCを強化する面からも、電力会社は、ガス会社と組んで、ガス&パワーモデルを進めていくべきなのではないだろうか。
例えば、関西電力や東北電力が東京ガスと組む可能性は高く、既に一部はアライアンスを結んだビジネスを展開しつつある。各電力が関東で電気を売りたいとなったら、東京ガスと組んでガス&パワーモデルをつくり、そこに分散型電源を入れていくことが望ましい形である。
現状では分散型電源が入っていないと、ビルの価値が下がるといわれている。ノン・エナジーベネフィットで、分散型電源がないビルの借室料は安くなってしまう。電気代が倍になったとしても、分散型電源が入っているほうが、BCP(事業継続計画)の観点で安全でもある。
そのため、外国企業は、率先して分散型コージェネレーションが導入されているビルに移動しつつある。
首都・東京などエネルギー密度の高い地域は、どの事業者も参入したがるだろう。しかし、それでは、国土強靭化にはつながらない。それぞれの市町村で、その地域に見合った自然エネルギーを取り込んだエネルギー会社を自治体が主導していくことが、やはり必要なのである。
マイクログリッドの出現を踏まえたエネルギーシステムは、今までの日本のグランドデザインに欠けていたところである。これまでは、電気事業法やガス事業法、熱供給事業法で地域独占が守られていたわけだが、自由化の渦中では今後、合理的なシステムが勝ち残っていくだろう。
ただし、大手電力会社は、まだ大規模電源をベース電源として担っていくほうが収益増になると考えている節があるが、最近になり、分散型コージェネレーションの導入に乗り出してきた。
自由化の風がシュタットベルケを、より現実的なソリューションモデルとして羽ばたかせてくれると期待している。諸外国も今後、同様のモデルづくりに取り組むだろう。日本は、その先兵なのである。
そもそも先兵となり得るかは、熱導管を入れたスマート&マイクロコミュニティの整備にかかっていると考える。オールジャパンでの取り組みが求められており、4省庁のインター省庁体制が動き出した2016年は、その幕開けの年だったのである。そして、すでに述べたが、2017年から国土交通省も参画し、5省庁体制へと進展した。