今回は、日本のインフラ発展の展望について探ります。※本連載は、東京工業大学特命教授・名誉教授、先進エネルギー国際研究センター長である柏木孝夫氏の著書『超スマートエネルギー社会5.0』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、ドイツのエネルギー戦略を参考にした、政府主導の「日本版シュタットベルケ」について説明します。

自治体の誘導で「地銀の投資」を喚起

経済産業省の事業では、当初4億円を上限として3分の2を補助する。最大3年間で12億円が助成されるが、残り3分の1を誰が払うかが課題である。

 

その解決策には、いくつかパターンがあり、ひとつは「かごしまグリーンファンド」のように、再生可能エネルギーやコージェネレーションなどへの投資ファンドをつくる。あるいはインフラ自体に地銀が投資するというやり方である。

 

自治体が主導することで、どういうメリットがあるかというと、例えば、その熱を使ったビルの固定資産税を軽減するなど法的な優遇措置が可能になる。シュタットベルケが、合理的に動くよう自治体が誘導することで、地銀も投資しやすくなるだろう。

 

コージェネレーションが入り、自然エネルギーが入ってきてFITを利用したとしても、それほど売電利益が出るものではない。かえってシュタットベルケのように小売りしたほうが、安全に長く事業を継続することができる。

 

国レベルでは、自然エネルギーをより多く取り込めれば、パリ協定を前倒しで達成できる可能性も出てくる。

 

インフラへの投資は、ストックへの投資になり、安定した収入が得られる。自治体が絡んでシュタットベルケ内のインフラに投資するということになれば、電気や熱を効率よく供給できるパイプライン&ワイヤーにしたり、そのためのルールを改定したりといった措置も可能である。だからこそ地銀も安心して投資できるようになる。

 

ドイツの場合、大手電力会社に利用者が1万円支払ったとする。その会社の従業員数や自然エネルギーの割合などにより異なるが、地域に返ってくるのは大体10%で、1000円程度といったところである。

 

ところがシュタットベルケに1万円払ったとすると、大体3割のペイバックがあり、3000円は返ってくる。

 

同じ電力なら、補助金が入っているため、経営に安定感があり、かつきめ細かなサービスが可能なシュタットベルケから買ったほうが自分たちの地域の自然エネルギーを取り込め、充実感がある。

 

パイプラインには、地銀が投資し、自然エネルギーは民間が開発する。開発した自然エネルギーは、自分たちでそのシュタットベルケに売電すれば、地元に還元される。地域の中でお金が回り出すようになる。

 

ただし、ドイツは、今でこそシュタットベルケが全体の電力供給量の30~40%を占めているが、これは、IoT・ビッグデータ処理・AIの3点セットがデマンドサイドに入ってきてからの流れである。つまり、デジタル革命により、急速に増えてきたことになる。

 

経済産業省でいえば、この5省庁連携プロジェクトは地産地消モデルになるので、インフラ投資に民間資金を入れてほしいところである。

 

新しく熱導管を敷くとなると全長1キロあたり5億円くらいかかるのだが、共同溝のような形で公的地下空間内に入れるといった場合は、1キロあたり2億円程度、半額以下になる可能性がある。自営線ならばもっと安くすることも可能である。

 

同じくマスタープランを出している熊本県小国町でも、類似の取り組みを進めている。小国町では、温泉の熱導管を敷いて、地域の活性化につなげたいという狙いがある。スマートサーマルグリットにして、地域内の至る場所に蓄熱槽を入れ、IoTでつなげる。温泉客が多いところには、たくさんお湯を貯めておき、少ないところは湯量を減らすといった最適化をする。

 

しかし、これは、ラインで敷いてこないと高くついてしまう。そこで熱導管に沿って電線が入っているような形にすれば、太陽光や中小水力などの電力も送れる。そのうえ、熱導管は埋設する必要がないので、一石二鳥の効果が得られる。

 

小国町では、廃線になった路線に沿ってインフラを敷いていく計画である。ラインがあるようなところで、熱導管と自営線を一緒に敷いて通信網をつければ、かなりコストを抑えることができる。

 

このように線状のところに沿って、安くて良質のインフラが敷けるという事例を見せれば、町おこしそのものになる。地域の中で頭をひねり、特性に合わせたプランを立てていくことが重要である。

地銀のお金が地域内で回れば、地方創生につながる

分散型エネルギーシステムの事業では、政府はインフラの全額は補助せず、3分の2を補助するのだが、これが肝になっている。3分の1は地銀が投資することになるからである。

 

これに喜んだのが金融庁である。すなわち地銀改革になり、さらに地銀のお金が、その地域内で回るわけだから、地域創生にもつながる。金庫にお金が入ったままではマイナス金利のままだが、お金の循環が良くなれば、金利が上がるようになる。地域のブランドや地価も上がり、人が集まってくる。人口減の社会にあってもコンパクト+ネットワークが可能になる。

 

このようなポジティブなスパイラルがうまく回るようになると、日本全体の地域創生に役立つのではないだろうか。その要は「地銀改革にあり」というわけである。

 

鹿児島県に行って安心したのは、地銀がグリーンファンドにこれだけ融資している点である。FITでグリーン電力には一定価格が入るから、地銀も安心して融資ができるのだろう。

 

ただし、今後は、その先を考えないといけない。自然エネルギー系を目いっぱいどこまで取り込めるのかチャレンジする意味でも、シュタットベルケや地産地消システムをどう取り入れていくかが大事になる。

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