日本で「ドイツ流・インフラ改革」を実現するための条件とは?

今回は、日本が「ドイツ流・インフラ改革」を推進するために必要な条件を探ります。※本連載は、東京工業大学特命教授・名誉教授、先進エネルギー国際研究センター長である柏木孝夫氏の著書『超スマートエネルギー社会5.0』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、ドイツのエネルギー戦略を参考にした、政府主導の「日本版シュタットベルケ」について説明します。

日本では「所有権分離」まで行うのは不可能だが・・・

前回紹介したような取り組みは、大手の電力会社の目にはどう映るのか。

 

電力にとって自営線は、託送料の二重投資になるので本来あまり歓迎されない。ところがドイツでは、シュタットベルケが自営線を敷き二重投資になる場合は、その配電線を自治体が買ってしまうことがある。

 

あるいは昔から高圧線は電力会社が持っているが、配電網だけは自治体の所有、つまり、その地域が持っている公共インフラとなっているケースもみられる。

 

日本の場合には、1951年に電力会社を民営化した際、発電所・送配電すべての設備の所有権を電力会社に与えた。この仕組みで今まで発展してきたことは否めない事実である。しかし、50年前に民営化し、そして今後は全面自由化時代になるからといって、ネットワークを切り離し、所有権分離まで行うのは不可能である。2020年までに法的分離ぐらいしかできない。

 

いくら発電所を造っても遠方の需要家に売電するには、電力会社の設備を使わせてもらわなければならない。この場合、1キロワット時の電気を運ぶ際の託送料は概ね7~9円程度になり、かなりの負担となる。石炭火力の回避可能原価と同程度のコストを託送料で払うことになる。

 

この費用負担に関しては、送配電にかかるコストだけをニュートラルな立場から厳密に精査し、計算して算出した正当な価格である。なぜ、このような高額負担になるかというと、日本各地で山奥などの過疎地まで電線を敷いているからである。東京都のようにエネルギー密度が高く、潤沢に流れる送配電線ばかりではない。少ししか流れない電線もたくさんある。それらをすべて平均化すると、高コストになるのは当然である。

いかに「二重投資」を回避するかがポイント

送配電線を電力会社が持っている日本の現状で、最も国民負担が少なく、かつ日本のエネルギー需給構造を充実したものにするにはどうしたらよいのか。

 

原点に立ち戻ると、二重投資にならないように、例えば、エネルギー密度の高いところに特化して熱導管などを敷く際には、自営線も敷く。電力会社にもプラスになるような形でうまく敷いていけば、投資のよさが出てくる。民間投資でも、早くペイバックできる形であれば二重投資にはならない。

 

不安定な自然エネルギーをたくさん取り込みたい場合などが良い例になる。例えば、神奈川県川崎市がそうである。市庁舎に近接してNTT(日本電信電話)の支店や、熱を使うスポーツセンターがある。そういう場所に熱導管をうまく敷くだけで、コージェネレーションが活用できる。山村なら、エネルギー密度が高い中心部の近くに製材工場があれば、チップが出てくるから、バイオマスによる熱電併給ができる。

 

パリ協定の発効で、自然エネルギーに対する潮目が変わったものの、物理的に取り込めないものは、何をやっても無理である。それなら、エネルギー密度の高い都市中心部に熱導管を敷設するついでに自営線を敷いてしまえば、託送料は、ものすごく安く済むのである。エネルギー密度の高いところに電線を敷くわけだから、投資をしてもペイバックタイムは3~4年、もしかしたら2~3年で回収できるかもしれない。

 

とはいえ、2~3年で投資回収しては、電力会社が管理しているネットワークに対してクリームスキミング(良いところ取り)になってしまうから、地域内でのエネルギーをうまく融通し合い、系統ネットワークにも貢献できるように需要地内でうまく制御することが望ましい。IRR(内部収益率)が3~5%で回るようにすれば、自営線の託送料1円以下も目指せるだろう。

 

すなわち自営線に分散型電源をぶら下げ、域内で融通し合い自営線と送電網を一点でつなげれば、分散型の不安定性は問題にならない。その融通のエネルギー密度が高いから託送料は安くなる。

 

電力会社にとっても一点でつなげてくれれば、コントロールしやすく、持てる大規模電源の力を目いっぱい発揮できるようになる。そうなれば、効率の悪い大規模電源はどんどん減って、効率の良いものだけが残り、大規模発電所全体の稼働率が上がる。電力会社の収益も改善する。そしてコミュニティの中では、自然エネルギーが目いっぱい取り込むことができ、託送料も安くなる。これこそウィン・ウィンな関係といえる。

 

さらに、需要地内に電源立地するので、その分、遠方から送電線を使って電気を送電する必要がなくなり、送電網に空きができる。山村部からの再生可能エネルギーの電気を、送電線を強化することなく取り込むことができる。送配電網は、自由化後も総括原価方式のため、国民負担の軽減をもたらすことも見逃せない。

 

今後、日本でもシュタットベルケはどんどん増えていく。自治体主導のエネルギー供給会社、要するにユーティリティ会社が各地に入ってくる。総務省の5省庁連携プロジェクトでは、大手のシュタットベルケから小さな町のシュタットベルケまですでに約40カ所以上も出てきている。これには補助金が入るし、非常にきめ細かなサービスが可能なので、簡単には潰れない。LPガス事業者も一部はシュタットベルケに変遷していくだろう。

 

人口が日本の3分の2のドイツには、約1400社のシュタットベルケがあり、そのうち約900社で全体の電力の3~4割を供給していることから考えれば、日本でも2030年に向けて数百社程度までは伸びそうである。

 

[図表]エネルギー需要構造のグランドデザイン

 

東京工業大学特命教授・名誉教授
先進エネルギー国際研究センター長 

1946年東京生まれ。1970年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒業。1979年、博士号取得。米国商務省NBS招聘研究員、東京工業大学工学部助教授、東京農工大学大学院教授を経て、2007年より東京工業大学統合研究院教授、2009年より同大先進エネルギー国際研究センター長、2012年より同大特命教授・名誉教授。

1995年、国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2作業部会の代表執筆者。2011年より、(一財)コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)理事長。

現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長、水素・燃料電池戦略協議会座長、内閣府エネルギー・環境イノベーション戦略推進WG座長などを務め、長年、国のエネルギー政策づくりに深く関わる。2018年、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「脱炭素社会実現のためのエネルギーシステム」のプログラム・ディレクター(PD)に就任。2017年、エネルギー・環境分野で最も権威のある国際賞「The Georg Alefeld Memorial Award」をアジアで初めて受賞。

主な著書に『コージェネ革命』(2015年)、『エネルギー革命』(2012年)、『スマート革命』(2010年)など。

著者紹介

連載ドイツのエネルギー戦略に続け! 日本政府が仕掛ける「日本版シュタットベルケ」とは?

超スマートエネルギー社会5.0

超スマートエネルギー社会5.0

柏木 孝夫

エネルギーフォーラム

地方創生と地域活性化を促す「日本版シュタットベルケ」の実現へ! 2018年7月3日に「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定された。再生可能エネルギーを早期に経済的に自立化させて主力電源化を目指すことが明記された。そ…

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