前回は、「マンションの老朽化」によって浮き彫りになる数々の問題を紹介しました。今回は、「マンションの一生」から適切な運営方法を探ります。

日々の管理を行うだけでなく、建物に「愛着」を持つ

集合住宅は時代のなかでさまざまな変遷をたどってきましたが、建物の劣化や老朽化を免れることはできません。一棟のマンションが竣工されて、立て替えを経て解体を迎えるまではまさしく人の一生と同じです。さまざまな段階とそこでポイントとなる事項を併せてお伝えしましょう。

 

●新築・引き渡しまで

 

設計、施工を経て引き渡しを迎えます。マンションが入居者の安全と健康を守り、快適な毎日を提供することは第一条件ですが、日々の管理やメンテナンスを適切に行うこと、そして何より建物に愛着を持つことが重要です。

 

賃貸の場合は大切に住み続けてくれるような良い入居者に選んでもらえるように努めたいものです。必要に応じて、適切な情報をすみやかに告知するために、管理人もしくは所有者と、住人がきちんとコミュニケーションを取ることが大切です。

 

●居住・管理

 

マンションの成長期ともいえます。マンションは住む人の一生を見守る立場でもあり、賃貸・分譲の別なく、住む人のライフサイクルの変化によって必ず入退去の時期が訪れます。退去手続き、あるいは売却や賃貸、相続など、必要な手続きを経て、また状況に応じてクリーニングやリフォームを行って新しい住人を迎えます。

 

マンションの所有者あるいは管理者は、定期的なメンテナンスのほか、適宜細部まで状況をチェックして手入れをすることでマンションの寿命を延ばすことができます。外壁の汚れや設備の不具合などは小さな変化のうちに見つけて対応することで、人が定期的に健康診断を受けるように、大きなトラブルを食い止めることもできます。

修繕を後回しにせず「長期的な展望」を持って行う

●建て替え

 

人間も中高年になると、体のあちこちにガタがきてケアが必要になるものです。マンションの場合も、築30年を超えるあたりから修繕の機会が増えてきます。分譲でも賃貸でも、修繕計画は以下のような点をよく考えて、長期的な展望を持つことが必要です。

 

○そもそも現在の耐震基準を満たしているか

○耐震診断を受けたか、また不備があれば耐震工事を行うか

○今後建物がどの程度老朽化すれば建て替えるか

○いつ頃大規模修繕を行うことができるのか

○分譲であれば積立金は準備できているのか

 

修繕、あるいは建て替えを行わなければいけない状況に追い込まれてから考え始めるのでは遅いです。人が安心して生活を送るために準備が必要なように、心しておくべきことはすみやかに決め、ずるずると後回しにしないことが肝心です。

 

●解体まで

 

より良い余生を考える「終活」という言葉があるように、マンションも安らかな最期を迎え、関わる人に迷惑をかけることのないように準備をしておくことが必要です。

 

それなりに築年数の経過したマンションでは住人も高齢の場合が多くなります。その場合、退去もしくは相続となりますが、なかなか新しい入居者が見つからないことも少なくありません。

 

適切なケアで良い状態を維持し、なるべく寿命を長く維持することが大切です。

マンションは「不良ストック化しやすい」建物

昨今問題視されているのは、ストックの数ばかりがどんどん増えていることです。ストックとは既存の中古マンションと、完成しているにもかかわらず入居者が見つからない空き住戸(空き室)です。

 

連載の第1回で述べましたが、2014年末で全国のマンションストックは約613万戸であり、総住宅数の1割以上を占めます。以下の図表1のグラフを見ると、新規供給戸数は経済状況などによって推移しているものの、ストックの数は右肩上がりに増加していることが分かります。

 

[図表1]全国のマンションストック戸数

国土交通省「住生活基本計画 参考資料」より
国土交通省「住生活基本計画 参考資料」より

 

こうした「マンションが余っている」理由には、新設着工戸数の勢いが止まらないこともありますが、現状のストックを積極的に活かせていないことや、取り壊すべき建物がそのまま残っていることも関係しています。

 

空き家は所有者の判断一つで解体の選択もできますが、マンションなどの集合住宅は解体に莫大な費用がかかるうえ、特に分譲の場合は区分所有者の合意が集まらないと何もできません。その意味でマンションは「不良ストック化しやすい」建物なのです。

建て替えや耐震工事が行えないと、命の危険も・・・

空き家が地域に悪影響を及ぼすように、空き室の増加はマンションのスラム化を引き起こします。またさまざまな理由で建て替えが進まず耐震工事も行えずにいると、万一の事態が起こったとき命に危険を及ぼしかねません。

 

以下の図表2はマンションのストックのみのデータではありませんが、東京のマンションの5分の1以上が旧耐震基準で造られていることを示しています。

 

[図表2]東京の建築時期別のマンション戸数(2013年末時点)

*旧々耐震基準…1971(昭和46)年改正以前の基準。
*旧耐震基準……1981(昭和56)年改正以前の基準。
*新耐震基準……1981(昭和56)年改正による基準。中地震(マグニチュード5以上7未満)では損傷せず、大地震(マグニチュード7以上)でも倒壊しないことを追加。
総務省「住宅・土地統計調査」、東京都都市整備局「住宅着工統計」より

 

政府もただ手をこまねいているわけではなく、改正マンション建替え円滑化法(2014年)のほか、建て替えによる売却が成立したときに、特別控除や長期譲渡所得の軽減税率を設けるなど、さまざまな方法で建て替えを促しています。

 

しかしストックの問題を適切に解消するには、もう一歩踏み込んで実状を見ていく必要があるのではないでしょうか。

 

ストックがあるから新しいマンションを建てる必要がない、とはいえません。少子高齢化の時代でも新しい命が生まれてくるように、今こそ立地や設備のニーズを正しく踏まえて価値のあるマンションを建てるべきです。

 

そのようなマンションを有効な資産として継承し、建物本来の寿命を全うさせることが真のサステイナビリティだといえるでしょう。

 

そして同時に、現状のストックを有効に活かし市場に流通させるとともに、不要なストックに引導を渡し適切に建て替えるには、ある程度の強制力をもって臨む必要があるかもしれません。

 

この点については政府も注目しており、重要な施策として数値目標も立てられています。住宅ストックを〝負の遺産〞にしないために、今が正念場なのです。

本連載は、2018年2月28日刊行の書籍『これからのマンションに必要な50の条件』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

これからのマンションに必要な50の条件

これからのマンションに必要な50の条件

熊澤 茂樹,安井 秀夫

幻冬舎メディアコンサルティング

供給過多により空室リスク・管理不全を回避せよ! マンションの資産価値を高め、数十年先も安定収入を生み出すために知っておくべき50の条件 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、都心部を中心にマンシ…

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