見た目も大切だが、やはり重要なのは「内部」
これまでの連載で見てきたように、都市部の限られた場所に立つマンションは「公共性」がキーワードになります。多くの人のニーズに合うデザインで、壊れづらく、修繕しながら使い続けられるマンションにするには、どのような条件が必要なのか。今回から、具体的に紹介していきます。
建物はよく人の体に例えられます。コンクリートが筋肉、設備配管が血管、鉄骨が骨、電気配線が神経で、外装は洋服のようなものです。もちろん見た目も大事ですが、やはり、外からは見えにくい「体」、つまり建物そのものがしっかり造られていないと、見た目がどんなにきらびやかであっても、不具合が生じて、どうしても寿命が短くなってしまうのです。
例えば人の体のなかでも、血液が流れる血管は、詰まったり破裂したりすると命に関わります。設備配管も同じで、もし詰まってしまうと建物に悪影響を与えてしまいます。外観にとらわれず、構造や内部についての条件もしっかり押さえておきましょう。
コンクリートの「水セメント比」は60%以下か?
条件①:使用するコンクリートの基準がしっかりできている
建物の筋肉といわれるのが、コンクリートです。体を支えるのに筋肉が欠かせないように、建物にとっても、コンクリートの強さが非常に重要です。では、その強さはどのように決まるのでしょうか。
そもそもコンクリートとはどのようなものなのか、からお話します。コンクリートは、セメント、水、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)、混和材料から構成されます。混和材料とは打設作業(コンクリートを型枠に流し込む作業)をしやすくしたり、強度や耐久性を向上させたり、凝固速度を調整したりするためにコンクリートに混ぜる薬剤のことで、混ぜるのは比較的少量です。
コンクリートの強さは、「Fc:設計基準強度(建物の構造的強度)」「スランプ」「水セメント比」を見ると分かります。
Fcは、「Fc=18(N/㎟)」「Fc=24(N/㎟)」などと記されます。これは、それぞれ、「1平方ミリメートル当たり18 ニュートン」まで、「1平方ミリメートル当たり24ニュートン」まで耐えられる、という意味になります。
鉄筋コンクリート造りの集合住宅の場合は、Fc=24以上であることが望ましいです。
スランプは、生コンクリートの軟らかさを表します。これは、スランプ実験で求めます。以下の図表1のように、高さ30㎝の円錐形の容器(スランプコーン)に生コンクリートを詰めて引き抜き、どれだけ頂点が下がったかを計ります。
[図表1]スランプ試験の手順
頂点が5㎝下がれば「スランプ5㎝」となります。軟らかいほど、スランプの値は大きくなり、一般には次のような目安があります。
●建築物用(ビル、マンション等)→15〜18㎝程度の軟らかい生コンクリート
●土木構造物用(ダム、道路等)→5〜12㎝程度の硬い生コンクリート
条件②:使用されているコンクリートの水セメント比が60%以下である
コンクリートの強度を表すもう一つの指標「水セメント比」は、水とセメントとの割合で「水量÷セメント量」の百分率で示されます。水が50ℓ、セメントが100㎏の場合は、水セメント比50%となります。
水が多いほど練りやすく、型枠にも打ち込みやすくなりますが、コンクリートの強度は低下します。水セメント比が低いコンクリートのほうが、強度も品質も高くなります。住宅金融支援機構では、水セメント比の最大値を、一般的なコンクリートの場合で65%と定めています。自社の基準として、それよりも低い60%以下に設定している事業所であれば安心といえます。
コンクリート強度を守る気温・湿度対策はあるか?
条件③:「支保工」の管理をチェックする体制がある
品質の高い生コンクリートがプラント(工場)から建築現場に届いたとしても、そこから始まる施工の各段階で、コンクリートの品質を守る工夫がされていなければ、頑丈な建物にはなりません。打設方法や養生方法次第で、品質が大きく変わってしまうのです。
まず重要なのは受け入れ時の検査や、強度の管理です。例えば、打設後は生コンクリートが設計上の強度になるまで、「型枠支保工」(以下の図表2)という支柱で支える必要があります。十分な強度が出て初めて、この支柱を外すことができるのです。しかし、工期を短縮しコストを圧縮するために、強度が出るのを待たずに、支保工を外してしまうケースが少なくありません。
すると見ないたわみが生じ、脆いコンクリートになってしまいます。そもそも設計強度100%の確認ができなければ、支保工を外してはいけないことになっていますので、違法行為です。
支保工の管理をチェックする体制は不可欠なのです。
[図表2]スラブ下の型枠支保工
条件④:コンクリート強度を守る気温・湿度対策がある
生コンクリートは使われる場所の温度や湿度によって固まり方が異なります。そのため、「コンクリートの養生」といって、コンクリートを練ってから固まるまでの間に適切な温度と湿気の管理をして、十分な硬さが出るよう配慮が必要です。風雨や日差しに対し、コンクリートの露出面を保護することも欠かせません。
レディーミクストコンクリート(=生コンクリート)の日本工業規格JIS、A5308に基づいて、スランプや空気の量などの測定を確実に実施し、コンクリートの耐久性や品質保持に努めていることが望まれます。
また、しっかりと現場への定期的なパトロールを行って、適切な方法が実施されているかをチェックする体制ができているかどうかも重要です。
建物内を通る「管」にも老朽化対策が施されているか?
条件⑤:配管が縦管メインに考えられている
上下水道管やガス管を上下階に通す縦の配管スペースをパイプスペース(PS)といいます。
詳しく分けると、上水、汚水(トイレ排水など)、雑排水(台所、風呂、洗濯などの排水)、ガスの配管が通っています。パイプスペースは、バス、トイレやキッチンなどの水回りの近くにあるのが理想。パイプスペースが一カ所にあり、トイレやキッチンが離れている場合は、床下に横引きの排水管を這わせてつなぐケースがあります。
横引きの配水管は、できるだけ直線で短いほうが良いです。長くて数カ所のクランク(折れ曲がる部分)があると、そこが詰まってトラブルの原因となるからです。
トレイとキッチンが離れている場合でも、それぞれの近くにパイプスペースがあれば、横引きの配水管を設置する必要がないので、パイプの詰まりを回避できます。
極力、横引きの管がないほうがより安全といえます。
条件⑥:給水管がしっかり固定されている
上水はパイプスペースから上がってきて、床下に這わせた塩化ビニルの水道管を通して、必要な場所に送られます。水道管は基本的に動かないように固定されますが、この固定がしっかりとされていないと、水漏れなどのトラブルにつながります。水は蛇口から出すときに大きな力が加わります。ホースを想像すると分かりやすいのですが、しっかり抑えておかなかったために、水が出たときホースの先が勝手に踊り出してしまい、ずぶぬれになったという経験がある人もいるのではないでしょうか。
室内の水道管も同じです。蛇口はひねるたびに、少しずつ振動で動きますので、しっかりと固定しておかないと、亀裂が生じたり、つなぎ目が外れたりといった事態になりかねないのです。特にL字になっている部分は水圧がかかりやすいので注意が必要です。
この話は次回に続きます。