「修繕・建て替え」の問題に直面する多くのマンション
一戸建てを取得するまでの「つなぎ」とされていたマンションは、機能や利便性の点で評価され、今では終の棲家として選択されることも少なくありません。
高齢になってから「マンションに住み替えたい」と考える人もおり、「高齢者になったとき住みたい住宅のアンケート」では、およそ5人に1人がマンション(持ち家)に住みたいと答えています(国土交通行政モニターアンケートより)。
2014年末の時点で全国のマンションストック戸数は約613万戸で、総住宅数の1割以上を占めています。以前、マンションは都市部に多く建てられていましたが、今では地方にも建設されています。
ここで考えてみたいのは、老朽化の問題です。どんな建物も経年劣化は避けられません。マンションの場合も修繕や建て替えの問題と向き合わざるを得なくなります。耐震基準の問題については後ほど述べますが、とくに利便性が重視されるマンションでは水漏れや設備の不具合などへの対応は急務です。
分譲マンションの場合、修繕積立金をもとに長期修繕計画を立てて計画的にメンテナンスを行いますが、区分所有者の合意が一定数集まらないと計画の変更や建て替えの決議ができないことがネックになります。
賃貸マンションの場合には、個人オーナーにとっては次の世代へ資産として引き継ぐものであり、法人オーナーにとっては事業の柱の一つでもあることから、空き室を出さないためにも設備のトラブルがあればこまめに対応していくことが欠かせません。
35年を過ぎたあたりから、マンションの老朽化が問題に
マンションの一般的な寿命とは一体どれくらいかご存じでしょうか。30年、あるいは50年、それとも100年持つものなのでしょうか?
本書籍の65ページで紹介した「同潤会」のアパートは、ある種の歴史的な建築物として一部の人から人気がありました。同潤会アパートのなかで最後の建物となったのが「同潤会上野下アパートメント」です。1929年に竣工され、2013年に取り壊されましたが、実に84年が経過したことになります。
さて、どれくらいもつのかという問いに対しては、答えはあってないようなもので、本書では繰り返しお伝えしている点ですが、長寿命になるように設計され、管理・メンテナンスを行っていけば、まさしく「持続可能(サステイナブル)」です。ところが現実的には「そうではない」マンションも多く、老朽化が大きく問題視されています。
目安としては、建ててから30年ほどの間なら、個別の修繕は別として老朽化についてそれほど意識することはないかもしれません。老朽化の修繕はだいたい35年を過ぎたあたりから、考える必要が出てくるといわれています。
マンションの着工のデータから、実際にどれくらいの戸数が修繕を要しているのか推計を立ててみましょう。
以下の図表を見ると、2015年に築30年を超えるマンション(分譲)は実に151万戸に達しています。さらに内訳を見ると、築30年以上が100万戸、40年以上が50万戸です。
[図表]分譲マンションの建築時期別ストック数
これが5年、10年経てば、そのままマンションのストックは推移していき、築50年以上も増加してくることになります。
これは分譲マンションのデータですから、賃貸を合わせれば相当な数になります。第1章で新設戸数のデータを紹介しましたが(本書籍33ページ参照)、リーマンショック以前は相当数のマンションが新設されており、その後、また徐々に戸数は増えてきていますから、マンション老朽化の問題はこれからさらに大きくなってくるでしょう。
耐震基準の整備前に建ったマンションは100万戸以上!?
最も心配されるのは安全性、例えば「耐震」の問題です。日本は地震大国であり、地震による被害は人ごとではありません。
現在の耐震基準は1981年に改正された建築基準法がもとになっており、一次設計、二次設計といった段階的な概念が盛り込まれています。一次設計では、建物の耐用年数の間に経験する可能性が高い震度5クラスの中規模地震の場合に損傷を受けず機能を保つことができるものとし、二次設計では震度6〜7の大地震で多少の損壊はあっても、倒壊には至らない設計を求めています。
その後、1995年の阪神・淡路大震災を受けて、2000年に改正が行われましたが、こうしていくら基準を厳密にしたとしても、それ以前に建てられたマンションは100万戸以上存在しています。建てたときに耐震性を考慮していなかった場合には、耐震補強工事を行うことがありますが、実際に行われているのは全体の1割ほどといわれます。
またマンションを維持・管理するという観点もこれまでは十分だったとはいえず、建て替えに至るまでにもさまざまな課題があります。老朽化の対策や建て替えの問題について本格的に議論されるのはこれからです。