前回は、国交省による「住生活基本計画」の見直しが不動産にどう影響するかを説明しました。今回は、日本の賃貸マンションが抱える課題を詳しく見ていきましょう。

利便性や機能面が劣ると「空室期間」が長引きがちに

住生活に対してはさまざまな取り組みが計画されていますが、ここで改めてこれからの日本の課題を見直してみましょう。高度経済成長期に各地で造られた団地やニュータウンでは、現在入居者の高齢化や空き住戸が増え、建物の老朽化が進む一方です。

 

首都圏であってもいずれは人口減少に向かうのではないかという懸念があり、これまで好調だった都心部の高級マンションの需要が減り一斉に売りに出され、マンション価格が暴落するだろうといった「2020年問題」なども取りざたされています。

 

さらに賃貸マンションは、首都圏などの都市部に限らず日本全国に造られ、立地や機能性が重視される居住形態です。利便性が重視されるため、優先度としては駅から徒歩10分圏内など交通の便の良さ、そして新しく機能的な設備があること、オートロック機能などセキュリティ対策があることなどが挙げられます。

 

住宅が供給過剰な状況では、これらの条件を満たさない物件は「魅力がない」と判断される可能性があり、空室期間が長くなる一方です。

 

賃貸の性質上、入居者の入れ替わりで一定の空き期間は発生するため、オーナー側ではある程度の空室リスクを想定しているかもしれませんが、なるべく早急に入居が決まることはオーナーのためにも、そして長い目で見れば入居者のためにもなります。安定的に家賃収入があれば修繕や管理、設備のリフォームなどが可能になるからです。

 

建物は経年劣化が避けられないため、老朽化が進むことでも空き室のリスクが高まります。空室リスクを回避するには入居者が重視するポイントを網羅しているか見直す必要があります。

居住者の高齢化や民泊への転用の問題など、課題は山積

賃貸マンションの借り手にはさまざまな事情を抱えた人がいます。家賃が払えず滞納が続けば、当然退去を宣告することになります。オーナー側からすれば、危険要素を抱えていそうな人には、いくら部屋を埋めたいとはいっても入ってもらいたくないというのが本音でしょう。

 

また超高齢社会の昨今、高齢者が賃貸物件の入居を求める場合もあります。一般的には「今後の収入の状況が心配」「部屋で孤独死でもされたら困る」と高齢になるほど審査が通らず、なかなか入居が決まらない場合が多いといいます。有料老人ホームは高額なところも多いため、資産がなく年金収入頼みの高齢者には難しいことも多いのです。

 

2011年から「サービス付き高齢者向け住宅」が登場しましたが、年齢だけでなく「要介護者・要支援者に限られる」ことから入りたくても入れない場合があります。高齢者の入居に関しては東京の文京区が高齢者・障がい者・一人親の入居に助成を行っていますが、これから検討の必要が出てくる課題といえます。

 

また入居に関して「困った」ケースには外国人の場合もあります。高額な収入を得て日本で働いている場合には外国人対応に慣れた専門の不動産業者もいますが、問題はそうではない場合です。

 

家賃の支払いに問題はなくても仲間同士のたまり場になったり、騒音やゴミ出しなどの問題からトラブルになることもあります。日本人の入居者が嫌がって退去する事態にもなりかねません。もちろんすべての外国人を疑う必要はありませんが、高齢者の問題と併せてこれから問われてくる課題といえるでしょう。

 

またマンションの空き室などを旅行者に貸し出す「民泊」も話題になっています。

 

訪日外国人観光客の増加で宿泊施設の需要が高まっているなか、空室を活用できるとあって注目されましたが、2018年1月時点では特区民泊として東京の大田区、大阪府の一部と大阪市、北九州市、新潟市のみで許可されています。

 

既存の旅館・ホテル業への影響や、衛生、治安などさまざまな問題が残されており、今後の動きが注目されます。

賃貸マンションにも存在する「格差」とは?

分譲マンションの場合、数年経って資産価値が変化した場合の「格差」は切実ですが、賃貸マンションにも「格差」といえる要素があります。

 

例えば「空室が出てもすぐに埋まる」マンションと「そうでない」マンションがあります。マンションで最も重要なのはやはり立地と設備です。マンションの価値を高めるにはさまざまな要素がありますので、本書で詳しく紹介する点をぜひ押さえてください。

 

物件選びをする際に重視する条件は入居者によって当然変わります。入居者の考える予算内の家賃設定で、なるべくコストパフォーマンスの良い物件が選ばれるのが基本ですが、さらにそこに築年数という要素が加わってきます。

 

空室を埋めたいと考える場合、入居者の心をとらえるには家賃設定なのか、あるいは設備の充実なのか、どこかの点で〝埋め合わせ〞をして「空室が埋まるか、埋まらないか」の格差を縮めることが必要になってきます。

アイデア次第で「差別化」をアピールできるケースも

空室対策に悩むマンションがある一方で、入居待ちが出るほど人気が殺到するマンションもあります。

 

例えば首都圏のある賃貸マンションで「壁紙を無料で選べるサービス」を行ったところ、爆発的に人気が集まり住み続ける期間も長くなったといいます。また別のマンションでは屋上庭園でサツマイモの苗を植えるイベントを実施したり、そのほかにも花火大会をマンション屋上から観賞するイベントを開いたりと、入居者のコミュニティづくりをサポートする、さまざまな試みが好評を博している事例もあります。

 

こうした工夫は必ず入居につながるというわけではありませんが、アイデア次第で「他とは違う魅力」をアピールすることもできる例だといえます。また築年数が経っている場合こそ可能になることもあり、空室リスクに悩む場合でも、入居者へのアピールは考え方次第だといえそうです。

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    本連載は、2018年2月28日刊行の書籍『これからのマンションに必要な50の条件』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    熊澤 茂樹,安井 秀夫

    幻冬舎メディアコンサルティング

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