最大の理由は「価格の安定性」にあるが、課題も
以下の図表1には、各種燃料の発熱量当たりの価格の推移が示されている。暖房油や天然ガスに比べると、木質燃料は、これらよりも低いレベルにあり、特にチップの安定性が注目される。これが木質燃料の消費の増大を支えてきた。
[図表1]発熱量当たりの燃料価格の推移 ドイツ、四半期別2003Ⅰ~2016Ⅱ、€/MWh
ただし、木質チップの価格はバラツキが非常に大きい。原料となるバイオマスの種類やプラントまでの輸送距離によって大差があるからである。安価な木質燃料を、どのようにして安定的に確保するかが極めて重要な意味を持つ。
基本的には、木質原料のカスケード利用を徹底するとともに、可能な限りバイオマスの発生地の近くで消費することである。製材工場などの木材加工施設の近隣にバイオマスプラントが設置されていれば、各種の工場残廃材を安定的に確保できるうえに、燃料の輸送距離も短くて済む。
熱供給の分野で大きな期待がかかる「木質燃料」
ドイツ政府の長期目標によると、温室効果ガスの排出量を2050年までに1990年比で80~95%減らすという目標を掲げている。電力については、再生可能エネルギーの比率を2025年までに40~45%、2035年までに55~60%、2050年までに80%にまで高めるという。
2015年の時点で、この比率は31.6%に達しており、順調な滑り出しになっている。772015年の電源構成で見ると、風力・太陽光が63%を占める。この両者は、今後さらなる増加が期待されている。
現在のところ、バイオマスは26.8%のシェアを持っているものの、固形バイオマスに限ると5.8%に過ぎない(以下の図表2参照)。バイオマスは、資源的な制約もあって発電量を現在以上に増やすのは難しいとされている。
[図表2]再生可能エネルギー電力の発電量と電源構成の推移 ドイツ、1990~2015年
その一方で、再生可能な熱については、電力に比べて増加のスピードが遅く、総熱消費に占めるシェアも2015年の時点で13.2%にとどまっている(以下の図表3参照)。熱源構成で特徴的なのは、バイオマスが依然として9割近くのシェアを保っていることだ。固形バイオマスの割合は若干低下しているものの、その減少分がガス状・液状のバイオマスで埋められている。太陽熱や地熱・ヒートポンプによる熱供給が意外なほど増えていない。
[図表3]再生可能エネルギー熱の最終消費と熱源構成の推移 ドイツ、1990~2015年
ドイツ政府は、再生可能な熱については達成目標値を提示していないが、バイオマスは資源の制約があるし、太陽熱・ヒートポンプの普及にも不確実な点があって、予測しにくいからであろう。再生可能エネルギー熱の供給を増やすことよりも、熱の消費を減らすことに力点を置いているように見える。
それはともかく、熱供給の分野で木質燃料に大きな期待がかけられていることは疑いない。