前回は、賃貸不動産を利用した節税の仕組みと、専門家チームに頼ることの重要性について説明しました。今回は、賃貸不動産を活用した節税対策の成功事例を紹介します。

賃貸用建物の購入時に「法人」で借入れをすると・・・

今回は、連載第1回で紹介した対策をもとに、評価減を図った事例を見てみます。対策する前の詳細は、下記の図表1をご覧ください。

 

[図表1]対策前の財産状況と相続税額

資産家Aさんの財産は、主に土地・有価証券・預貯金で、土地の評価額は約5億円、有価証券・預貯金はそれぞれ4000万円でした。

 

Aさんはすでに相続税対策の一環として、所有する土地の上に同族会社の賃貸用建物を建てていました。つまり自分の土地を、同族会社に貸している状態です。ですからAさんは、「土地の無償返還に関する届出」を提出して、土地が20%の評価減を受けられる状態になっていたのです。

 

ただし、肝心なところが間違っていました。賃貸用建物を購入するための10億円ほどの借入を、すべて法人で行っていたのです。つまり、個人の借入ではありませんから、その借入が個人の財産と相殺されることはありません。ですから、相続税対策にはほとんどなっていませんでした。

 

そうすると、その時点では「土地の無償返還に関する届出」による評価減だけとなり、合計の評価額は約5億円と依然として高額なままでした。

 

この財産を相続することになるのは2人の子です。もし急にAさんが亡くなり、子がこの財産を相続したとします。すると、改正後の基礎控除を差し引いた課税財産総額は約4億4000万円となり、相続人1人あたりの取り分は約2億2000万円となります。相続税の概算としては、合計で約1億4000万円にもなってしまうのです。

 

なぜ法人で借入したかをAさんに尋ねると、業者やコンサルタントなど「いろいろな専門家」に勧められた結果とのことでした。そこにどのような意図があったのかは私でもわかりかねます。

 

しかしとにかく、Aさんは現時点でこの約1億4000万円という高額な相続税が課税されることを不安に感じており、私のところに相談に来てくださったのです。

マイナスの財産を作ってプラスの財産を得る方法とは?

そこで私は、差し迫ったこの状況を打開すべく、今度はしっかりと個人で借入をして賃貸不動産を購入する対策を提案しました。対策後の詳細は下記の図表2をご覧ください。

 

[図表2]対策後の財産状況と相続税額

まず、約5億円の評価額を減額することを考えて、6億6000万円を借り入れ、その資金で賃貸不動産を購入します。賃貸不動産の購入価額は6億6000万円ですが、相続税評価額は約2億円となります。

 

つまり、借入として6億6000万円のマイナスの財産を作って、土地と建物で約2億円となるプラスの財産を得たことになります。その結果、約4億6000万円のマイナスが生まれているのです。

 

それによって相続税額がどうなるかというと、もともとの5億円の相続税評価額があったところに、今回購入した相続税評価額が約2億円の土地と建物が加わり、合計で約7億円となります。

 

その一方で、借入の約6億6000万円があります。これはマイナスの財産ですから、約7億円から差し引くことになります。その結果、課税財産はゼロとなり、相続税もゼロとなります。これで、もともとかかるはずだった相続税額の約1億4000万円がすべて節税できました。

 

Aさんは一度同族法人による相続税対策で失敗しているのですが、結果的にこちらの相続税対策を実施することで、将来Aさんの子たちが支払う相続税をゼロにすることができたのです。

 

この事例では、大きな節税効果がわかると同時に、業者の売上のためにクライアントが損をしそうになった、看過してはいけないケースだったともいえるでしょう。

本連載は、2013年11月27日刊行の書籍『大増税時代に大損しない相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大増税時代に大損しない 相続税対策

大増税時代に大損しない 相続税対策

北村 英寿

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策を成功させるためには、実行に移してからの最終的な「出口戦略」まで考える必要があります。 「出口戦略」とは、相続税対策のために購入した賃貸不動産の最終的な顛末を考えることです。 相続発生後は、基本的にそ…

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