プラザ合意から起こった出来事を機に、新たなスポンサー(投資家)探しを決意した筆者。それまで温めていた、企業が持つ資産の「含み益」に着目した投資アイデアとは?

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外国人投資家を「混乱させない」話し方とは・・・

マブロマチス氏から距離を置くことを決心した筆者は、当時、温めていた投資アイデアを一つのレポートにまとめて、新たなスポンサー(投資家)を探すことにした。海外の投資家と話す際に私が常に心がけるのは、彼らの投資尺度に合わせて筆者が伝えたいストーリーを理論立てていくということだ。

 

時として日本特有の情報が、投資価値を判断する時に重要な意味を持つ場合がある。ただ、仮にそういう場合でも日本の市場ルールをそのまま説明することは、外国人投資家を混乱させてしまう。日本のローカルな尺度を、グローバルな尺度に翻訳をして話すことがどうしても必要だった。

 

筆者がニューヨークで起業をした1980年代、アメリカの投資家は、日本株市場についてほとんど知識がなかった。彼らはアメリカ市場における投資尺度をそのまま日本に当てはめて日本株の価値を評価しようとしていた。

 

 

当時、アメリカ市場でよく知られていた会社は、ソニーや日立といった家電や半導体の輸出で高い成長をリードしていた企業であった。それらの会社は、アメリカ市場における流通株ADR(American Depositary Receipts:米国預託証券)を発行し、ニューヨーク市場に上場していた。

 

だから、アメリカの機関投資家にとって日本株投資はよく知れた国際優良株だったが、1985年のプラザ合意を境に円高が急激に進行する中、日本の内需型企業に対する関心も高まっていた。金融・不動産・鉄道・小売などの内需を基盤とする銘柄は、それまで一度もアメリカ投資家に本格的に紹介されたことがなかったからだ。

 

筆者は、アメリカ人が用いる投資尺度を使って、スケールの大きな日本株投資のアイデアを考えていた。

PERの概念普及により変わり始めた日本株市場

筆者が新しいスポンサーを探すために起草したのは、次のような内容のレポートだった。タイトルは「TAKE OVER OPPORTUNITIES IN JAPAN(日本における企業買収の機会)」。筆者の考えていたのは、日本の土地を保有する不動産・電鉄会社の株式への集中投資の戦略だった。

 

当時、日本株式が割安かどうかを計るために使っていた尺度は、「PER」(株価収益率:Price Earnings Ratio)だった。PERとは、株価を1株当たりの利益(EPS)で割ったものだ。例えば、株価が1000円で、1株当たりの利益が100円であれば、PERは10倍になる。

 

1株当たりの利益が、毎年安定して継続すると仮定すると、あなたがこの会社に投資した(株を買った)元金は、10年後に全額回収されることになる。PERの逆数を益利回りというのだが、この場合、配当と内部留保金を合わせた益利回り10%の投資ということになる。利益の何倍で企業の価値を評価するか、という視点でPERは非常に便利な投資尺度で、株価の割高・割安を判断する時の最も一般的な指標である。

 

1960年代にPERの概念がアメリカから日本に輸入されるまで、日本の株式市場はもっぱら、時価(株価)ではなく簿価(額面価格)に対する利回りだけで計られていた。額面に対して配当利回りの高い株が優良株で、企業業績と株価とはあまり関係がないものと思われていたのだ。だから、増資も額面発行増資が当たり前だった。

 

株価というのは、株式市場における取引上の価格であり、利益との関係で株価を評価する尺度は、60年代にアメリカの投資家が日本の高成長株のPERが極端に割安に放置されているのを見て大量に買いを入れてきたことで一般的な尺度になった。

 

アメリカからPERの概念が入ってきて、日本の株式市場も大きく変わり始めた。利益水準と利益成長が株価の絶対的な決定要因となった。しかし、あまりにもPERが普及してしまったために、かえって見落とされる数字もあったのだ。そこが、筆者の目の付け所であった。

多額の含み資産を抱えた会社の株が放置されている!?

PERとは、将来、その企業が生み出すであろう利益が、どれくらい株価に折り込まれているかを計る指標だ。PERが高ければ高いほど、その企業の将来性が高く評価されていることになる。しかし、あまりにも高すぎるPERには、注意を要する。どんなに良い企業であっても、長期間、市場の高い成長期待に応え続けることはできない。高すぎるPERは、市場の成長期待が下方に振られた時に、大きく調整される。

 

PERの概念が入ってくるまで、日本には企業の将来性を買うという投資尺度がなかった。そのため、どんなに利益率が高く、成長していても株価は割安なまま放置されていた。そこで、初めて日本株に目を付けた第一世代のアメリカの投資家たちは、PERの安い新興の高成長企業を大量に買いあさった。

 

 

ソロス氏もよく筆者に、上場前のダイエーに目を付けて、創業者の中内㓛社長から株を直接購入したことを自慢していた。当時、株式後進国の日本は、アメリカの一流投資家にとっては草刈り場だったわけだ。

 

しかし、筆者が作成したレポートは、利益と利益成長、つまり損益計算書(インカム・ステイトメント)のみに偏重して、企業の持つ資産価値を評価する尺度を忘れていることに焦点を当てていた。資産と株価の関係はPBR(株価純資産倍率:Price-Book Value Ratio)により判断することができるが、当時はまだ時価会計は一般的ではなく、帳簿上の資産価格(簿価)との間に大きな乖離があった。そのため、不動産や株式など多額の含み資産を抱えた会社の株が、大きく割安のまま放置されていたのだ。

 

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本連載は、2015年1月22日刊行の書籍『株しかない』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

株しかない

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阿部 修平

幻冬舎

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