今回は、共有名義の収益不動産を相続した場合に起こり得る問題とその解決策を見ていきます。※本連載では、株式会社中央プロパティー代表取締役社長で、住宅ローンアドバイザー、相続アドバイザーでもある松原昌洙氏の著書、『相続の落とし穴! 共有名義不動産』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、「共有名義不動産」のトラブル対策を事例を交えて見ていきましょう。

父と叔母が共同購入した収益不動産を相続

前回の続きです。古い収益不動産を相続したことで、実際にどんなトラブルが起こり得るでしょうか。

 

「父と叔母で共同購入し収益物件としていたアパートがあります。父が亡くなり、子どもである私が相続しました。持分は、叔母と私の2分の1ずつになります」

 

「10年ほどそのような共有関係が続いたのですが、アパートはだいぶ老朽化し、今では10部屋のうち3部屋しか入居がついていない状況です。入居者募集を随時かけていますが、期待できそうにありません」

 

「そこで建て替えを検討しているのですが、叔母からは次のように反対されています」

 

『今融資を受けて建て替えたら、借金を私の子どもに背負わせ迷惑を掛けてしまう』

『現在入居している方に退去してもらわないといけない、ふびんだ』

 

「叔母の言い分もよく分かります。しかし、このまま入居者が減っていったら、修繕費用や固定資産税といった出費が、共有者である私たちにますます重く伸し掛かってくることは明白です。売却も提案したのですが、叔母にとっては大変思い入れのあるアパートで、手放す気は毛頭ない様子です」

 

「私としては持分を叔母に贈与してもいいとまで考えています。円満な解決方法はないでしょうか」

 

古い収益不動産を相続した典型的なケースですが、共有関係は少数ながら事情が複雑です。各共有者に買い取ったり建て替えをしたりといった余裕がない場合、共有者全員の同意の下で全体売却するのがベストですが、叔母さんの心境を察するにそれは難しいようです。

 

ただ現状を維持したとしても、その先にはいずれ相続に伴う新たな共有トラブルがやって来ることは十分に考えられます。

 

または入居者がゼロになってしまったとき、収益なしの状態で維持費を賄うことになってしまい経営を圧迫してしまいます。こうなってしまったら、マイナスの状態から抜け出すためいち早く手放すしかないでしょう。これは叔母さんも望んでいない結末だと思います。

叔母に贈与すれば贈与税が発生、持分の売却が理想

さて事例の解決方法ですが、相談者さんは「持分を叔母に贈与してもいい」と考えているようです。

 

しかし、これは気を付けなければいけません。贈与税が発生するからです。

 

実際に不動産鑑定士の力を借りて試算してみたところ、立地が良好だったこともあり土地の評価額はかなりのもの。贈与してしまうと叔母さんに大きな負担を掛けてしまうことが判明しました。

 

これは相談者さんも望んでいないことなので贈与案は却下となりました。それではどのような解決が理想的なのでしょうか。

 

相談者さんと叔母さん、それぞれと相談をした結果、相談者さんの持分を売却する方向で固まりました。

 

これであれば叔母さんが金銭的な負担を背負うことはありません。第三者との共有関係になったとしても、収入と支出のバランスも以前のままになります。気の知れた共有関係とはなりませんが、今後叔母さんが売却を決意される可能性もありますから、これが最善策だと考えられます。

 

さて実のところ、相談者さんの2分の1の持分は、本書を記している現在も売出中です。古い建物ということもあり、やはり買い主さん探しは困難となっているのが現状のようです。

 

しかし、相談者さんも今すぐ売りたいという心境ではないので、気長に買い取ってくれる方を待つこととなっています。

 

買い取った投資家さんが物件にリフォームをかけるという事例もありました。このような買い主さんが現れる可能性もありますし、叔母さんにとって不安のない共有関係を築いていける方を見つけられることが一番でしょう。

 

少なくとも、このまま入居者が離れていく一方の古アパートを下へ受け継がせていくことは避けないといけません。収益を生む不動産のはずが、損失を生む「負の遺産」を背負わすことにもなりかねませんから。

 

今のうちに整理をつけておくのは必須でした。その第一歩として、持分を売却することを決めた相談者さんは賢明でした。

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