今回は、共有者間で不動産の持分を売買した事例を紹介します。※本連載では、株式会社中央プロパティー代表取締役社長で、住宅ローンアドバイザー、相続アドバイザーでもある松原昌洙氏の著書、『相続の落とし穴! 共有名義不動産』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、「共有名義不動産」のトラブル対策を事例を交えて見ていきましょう。

知った仲だからといって「安値」での取引は危険

同じく古いアパートを相続した事例を紹介しましょう。こちらは他者への売却ではなく、共有者間で持分を売買するパターンです。

 

「父が遺してくれたアパートを兄の私が3分の2、妹が3分の1、共有持分として相続しこれまで私が管理してきました。このたび、建物の老朽化に伴い、金融機関から融資を受けて建て替えを検討しています。

 

ただ気掛かりは、本物件を担保に入れることになるので、持分のある妹に承諾を得て、形式上ですが借金の一部を背負ってもらうかたちになります。

 

妹に迷惑を掛けることはないと思いますが、万が一のリスクも考えられますし、いつまでも私たちの関係が良好とも限りませんから、この機会に共有関係を解消し私だけの名義に変えたいと考えています。

 

妹の共有持分を相場よりも安く買い取ろうと考えていますが、何か問題が生じるのでしょうか」

 

相談者さんが妹さんの持分を買うわけですが、知った仲だからといって安値での取引は危険です。

 

これまでにも何度か登場してきたように、破格の安値だと贈与と見なされ贈与税がかかってしまう可能性が高いからです。適正な時価での売買を行わないといけません。

 

そこでこの物件の3分の1に当たる適正な価格で、相談者さんが妹さんの持分を買い取ることになるわけですが・・・。実は取引時の出費はこれだけにとどまらないのです。

遺産相続の段階で「単独名義」にしていれば・・・

不動産の取得時には、不動産取得税や登録免許税など各種税金が発生します。これがかなりの高額で、事例のアパートは広大な土地に建っていることもあり、相談者さんへの負担は大きなものになると判明しました。

 

しかし、相談者さんは妹さんとの今後の関係も考慮し、共有関係解消を目指しました。税理士や不動産鑑定士との綿密な話し合いの後、出費をできる限り抑えながらの兄妹間売買を行い解決となりました。

 

このように、収益不動産を共有関係のままにしておくと、いざ解消というときに大きな負担を背負うことにもなってしまいます。そうならないために大切なことは、遺産相続段階できっちり分割をしておくことにあります。

 

遺産分割協議を行い、最初の段階でアパートを相談者さんの単独名義にしておけば、このような出費はありませんでした。もちろん無償で相談者さんが取得するのは不公平ですから、このときに相談者さんから妹さんへ相当額を支払えばよかったのです。

 

これは分割方法の中の「代償分割」です。相続時の取引なので、事例のような税金は発生せず、出費は少なく済んでいたことでしょう。

 

相続というのはたいてい急に訪れるもので、速やかに整理がつかない場合も多いでしょうけれども、後々のトラブルや大きな出費を避けるためにも、遺産分割協議は忘れずに行い、共有関係を解消しきっちり公平に分割しておくようにしましょう。

相続の落とし穴! 共有名義不動産

相続の落とし穴! 共有名義不動産

松原 昌洙

合同フォレスト

相続後に誰にでも起こり得る不動産のトラブルを回避せよ! 相続後に共有名義不動産を持った方、これから持つ可能性のある方へ、実際のトラブル事例と、その解決方法を大公開! 最初は些細な問題でも、時間の経過とともにみる…

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