今回は、不動産の共有関係を解消する方法のひとつ、「持分交換」に関する留意点を見ていきます。※本連載では、株式会社中央プロパティー代表取締役社長で、住宅ローンアドバイザー、相続アドバイザーでもある松原昌洙氏の著書、『相続の落とし穴! 共有名義不動産』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、「共有名義不動産」のトラブル対策を事例を交えて見ていきましょう。

単純な持分の交換は「等しい価値同士」で行うのが原則

前回の続きです。

 

ここで無視してはいけないのがAアパートとBアパートの価値です。単純な持分の交換は、両アパートの評価額が等しくないといけません。

 

もしAアパートの方が評価額が高かったら、Aアパートの持分を手放すお兄さんは不公平を感じてしまいます。交換後、評価額の低い方のBアパートを所有することになるのですから。

 

交換は、等しい価値同士で行うことが原則です。

 

「まあきょうだいだし、その辺は目をつぶろうよ」

 

とごきょうだいが納得したとしても、法律が許さないこともしばしばです。

 

交換時に発生した差額分は贈与と見なされ、その分の税金を払うことにもなりかねないのです。この点には注意しなければなりません。

 

事例の場合、両アパートは隣り合っていて立地条件がほとんど等しく、価値もほぼ同等であることが判明しました。よって単純な持分の交換だけで解決しました。

 

しかし、これは非常にまれなケースです。扱ってきたケースとしては、「一軒家」と「マンション」だったり、「アパート」と「駐車場」だったり、「都内のワンルーム」と「郊外のマンション1棟」だったりと、交換事例のバリエーションは豊富です。

 

当然価値の等しい交換にはなりません。このような場合はどうすればよいでしょうか。

差額がある場合は、交換によって贈与税がかかることも

事例をアレンジして考えてみましょう。

 

もしAアパートの方が価値が高ければ、Aアパートの持分を放出するお兄さんにとっては、不利な交換となってしまいます。穏便な解決を図るのであれば、弟さんからお兄さんへ、持分の交換にプラスして差額を金銭で提供することになります。

 

極端な例として、Aアパートの評価額が1億円、Bアパートの評価額が1000万円だったとします。お兄さんは5000万円、相談者さんは500万円の持分をそれぞれ手放すことになります。これは明らかにお兄さんが不利です。

 

そこで相談者さんが、500万円の持分と一緒に差額となる4500万円(もしくは4500万円に相当する物)を追加提供することになります。

 

これをせずに「きょうだいだしいいよね」と持分だけで交換すると、金額の大きさから見ても贈与税が発生してしまうでしょう。相談者さんはノーリスクで4500万円の大きな価値を受け取ったと言っても過言ではないのですから。

 

逆にBアパートの方が価値が高ければ、お兄さんにとっては有利な交換になります。この場合も差額が大きい場合は贈与税が発生するので注意したいですが、差額が小さければ贈与税の対象とはならないでしょう。ケースバイケースではありますが。

 

相談者さんが納得すれば、物々交換だけで済み、金銭の移動なくして完了することになります。

最初から単独所有にしていれば、そもそも不要な出費…

お金のことが絡んでくると少々ややこしいですが、持分の交換は金銭の移動を抑えられる分、共有者にとって負担の少ない共有関係解消方法といえます。不動産を複数所有している場合に限りますが、かなり有効でお勧めです。

 

税金面についても、不動産に詳しい税理士と相談しつつ進めていけば低コストで完了できるはずです。

 

ただ今回の事例で最も強調しておきたいのは、そもそも遺産分割協議の時点で、各アパートを共有関係にせず、ごきょうだいそれぞれの単独所有にしてしまえばよかった点です。そうすればこのような手間を掛けることなく、ごきょうだいの好きなようにアパートを処分できたことでしょう。

 

結局のところ、共有関係としたために起きたトラブルであり、共有関係の煩雑さを如実に感じさせる事例であったといえます。

相続の落とし穴! 共有名義不動産

相続の落とし穴! 共有名義不動産

松原 昌洙

合同フォレスト

相続後に誰にでも起こり得る不動産のトラブルを回避せよ! 相続後に共有名義不動産を持った方、これから持つ可能性のある方へ、実際のトラブル事例と、その解決方法を大公開! 最初は些細な問題でも、時間の経過とともにみる…

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