助成金受給の鍵は「採用」「定着」「育成」
国の雇用政策と連動した施策を行う企業を手厚くサポートする――。この国の意図を理解すれば、助成金の受給対象となるために必要な条件をイメージしやすくなります。ここでは「採用」「定着」「育成」の3つの視点でポイントを整理しましょう。
●採用
雇用関係の助成金は人材採用時に使える種類が豊富にあります。なかでもキーワードは「正社員化」と「無期雇用化」です。
本書籍『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』の第一章でも説明しているように、バブル経済崩壊以降、日本企業は非正規雇用を大幅に増やしました。その結果、非正規労働者の数は2036万人(総務省「労働力調査2017年平均」より)となり、1995年の988万人の約2倍に増えています。さらに全雇用者に占める非正規の割合は、37・3%(1995年は0・8%)と3分の1を超えています。
そこで国は「正社員化」「無期雇用化」を前提に採用した企業に対する助成金を拡充しているのです。安定した雇用形態で採用を検討している中小企業は受給のチャンスが広がっていると考えてください。
●定着
「働き方改革」が目指す先は、多様な働き方ができる社会の実現です。この場合のキーワードは「誰もが活躍できる労働環境」と「ワーク・ライフ・バランス」です。女性や高齢者、障害者を含め、働きたいと願う一人ひとりが活躍できる職場環境づくりに取り組む企業は助成金を受給できる確率が高まると思っていいでしょう。
●育成
「優秀な社員を育てたい」「新たな人事の諸制度を導入したい」──こうした社員教育に前向きな企業に向けた数々の助成金が用意されています。この場合のキーワードは「キャリアアップ」と「人材開発」です。
世界的に見て立ち遅れている、日本企業の再教育支援
労働力人口が減少するなかで生産性を高めるためには社員一人ひとりの能力アップが不可欠です。そこで国は、助成金を通じて企業の教育制度を充実させようとしているのです。
この背景には、労働者に対する日本企業の再教育支援が世界的に見て立ち遅れている現状があります。人材サービスのランスタッドが世界33カ国・地域の労働者に調査したところ、「勤務先企業が費用を負担する研修などを受けている割合は、日本は『労働者の4割』に留まり調査国・地域中で最下位」でした。とくに日本は男女差が大きく、助成に対する支援が遅れているとの結果が報告されています。
グローバル社会のなかで日本企業が世界の企業と肩を並べて戦うためにも、効率経営への転換は避けて通ることはできません。主要国のなかで最低水準に労働生産性を引き上げるべく、国を挙げた対策が始まっています。