前回は、ほとんどの企業が受給対象となる「キャリアアップ助成金」について取り上げました。今回は、労働環境の向上に活かせる「人材開発支援助成金」を見ていきます。

「労働環境整備」の第一歩を踏み出すきっかけに

もらわないと損をする助成金二つ目は「人材確保等支援助成金」です。これは労働環境の向上につながる制度を導入し、人材の定着や確保を図った企業に支給される助成金です。労働者が働きやすい職場環境は求職者にとっても魅力的な職場といえます。人材の定着と採用の両方に活かせる使い勝手のいい助成金といえるでしょう。

 

キャリアアップ助成金とは異なり、制度を導入した際の一度きりの受給ですが、コスト負担を抑えて労働環境整備の第一歩を踏み出す良いきっかけになるはずです。

 

この助成金には「雇用管理制度の導入」「介護福祉機器の導入」「賃金制度の整備」という3つの柱があります。

 

<雇用管理制度の導入(雇用管理制度助成コース)

 

次の5つの雇用管理制度を導入した企業が受給対象となります(図表1参照)。

 

[図表1]雇用管理制度の導入(雇用管理制度助成コース)

 

この制度のポイントは、離職率を低下させることで受給額が増えることです。まず目標を達成した段階(※)で57万円が支給され、さらに生産性向上にまでつなげた場合には割り増しされ最大72万円の助成額になります。

(※)制度導入による効果として、計画期間終了から1年経過後の離職率目標を達成できた場合。

介護・福祉関連の機器の導入など、設備投資に利用可能

<介護福祉機器の導入(介護福祉機器助成コース)>

 

文字どおり、介護・福祉に関連する機器を導入した際に支給されます(図表2参照)。

 

[図表2]介護福祉機器の導入(介護福祉機器助成コース)

 

介護・福祉業界は過酷な労働環境が定着率の低下を招いている側面があります。スタッフの負担を軽減するために設備機器を導入したいと思っていても、資金的な負担から設備投資に踏み込めない事業所も少なくありません。資金が足りなければ融資を受ける必要がありますが、その場合は返済の負担が事業所の経営を圧迫することになります。

 

この制度ではそれぞれ150万円を上限に支給されるので、設備投資の負担を抑えながら労働環境の改善につなげられるでしょう。

制度の変更・目標達成で「計2回」受給できる

<賃金制度の整備(介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)>

 

就業規則または労働協約を変更することにより、賃金制度を新たに定めた場合に制度設備達成助成が支給されます。さらに賃金制度の適切な運用を経て離職率に関する目標を達成した場合に計2回の目標達成助成が支給されます。(図表3、図表4を参照)。

 

[図表3]賃金制度の整備(介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)

※( )内は生産性要件を満たした事業主の場合
※( )内は生産性要件を満たした事業主の場合

 

[図表4]賃金制度の整備(介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)

 

現在、保育士や介護士の人材不足が深刻化している理由の一つに賃金の低さがあります。この制度を賃金体系見直しのきっかけにして、定着と雇用促進につなげることが可能です。

労働局の認定、また期間内の対策実施が必要

(受給できる会社の条件)

 

雇用保険に加入している

 

●あらかじめ「計画」を作成し、都道府県労働局の認定を受けること

 

●認定計画期間に「雇用管理改善になる制度の導入」または「介護福祉機器の導入(介護関係の会社のみ)」、「賃金制度の整備(保育関係・介護関係の会社)」のいずれかを実施すること

 

●①「雇用管理改善になる制度の導入」で効果があった場合。②「介護福祉機器の導入」、③「賃金制度の整備」は目標達成することでさらに受給額が増える

 

活用時の注意点として、事前に計画を作成し、労働局の認定を得ておく必要があります。さらに認定期間内に対策を実施しなければ受給対象になりません。手続きや認定期間に注意して活用するようにしてください。 

本連載は、2018年5月28日刊行の書籍『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

寺田 慎也

幻冬舎メディアコンサルティング

経営者は公的支援をフル活用して業績を向上させよ! 税理士・社労士資格を有する経営コンサルタントが豊富な実例をもとにわかりやすく解説。

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