前回は、「助成金受給」に必要な条件を説明しました。今回は、ほとんどの企業が受給対象となる「キャリアアップ助成金」について詳しく見ていきましょう。

キャリアアップ助成金には「7つのコース」がある

前回の連載内容を念頭に置きながら、ほとんどの企業が受給対象となり、もらわなければ損をする”鉄板”助成金を紹介していきましょう。

 

一つ目は「キャリアアップ助成金」です。これは企業が有期契約労働者(契約社員、パートタイマー、アルバイトなど)の非正規雇用労働者を正社員にするための制度を設け、さらにその対象者が実際に出た際に受給できる助成金です。

 

日本の非正規雇用労働者の減少を目的に、いま厚生労働省がとくに力を入れている制度です。柔軟に活用できる助成金ですので、労働者の新規雇い入れ、有期契約労働者の無期雇用労働者への切り替え、アルバイトの正社員転換、派遣労働者の直接雇用への切り替えなどを予定している中小企業はぜひ活用を検討してください。

 

この「キャリアアップ助成金」には次の7つのコースがあります。

 

「キャリアアップ助成金」の7つのコース

1.有期契約労働者等の正規雇用労働者・多様な正社員等への転換等を助成する「正社員化コース」

 

2.有期契約労働者等の賃金規定等を増額改定した場合に助成する「賃金規定等改定コース」

 

3.有期契約労働者等に対し、法定外の健康診断制度を新たに規定し、のべ4人以上実施した場合に助成する「健康診断制度コース」

 

4.有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を設け、適用した場合に助成する「賃金規定等共通化コース」

 

5.有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設け、適用した場合に助成する「諸手当制度共通化コース」

 

6.労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、新たに被保険者とした有期契約労働者等の基本給を増額した場合に助成する「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」

 

7.短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険を適用した場合に助成する「短時間労働者労働時間延長コース」

 

なかでも最も利用しやすい助成金が「正社員化コース」です。本書では以降、この「正社員化コース」を前提に説明していきます。

要件を満たせば、1年間で最大1440万円の受給も可能

この助成金の何が利点なのか。それは中小企業の場合、要件を満たせば1年間で最大1440万円の助成金を受給できる点です(以下の図表1参照)。しかも制度が変更されない限り、毎年継続して利用可能です。

 

[図表1]

※①〜③合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限は20人まで
※金額は1人当たりのものです
※①〜③合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限は20人まで ※金額は1人当たりのものです

 

例えば中小企業の場合、雇用期間が6カ月以上の有期雇用労働者を正規雇用へ転換すれば、一人当たり最大72万円の助成金が支給されます。この助成金は1年間で20人まで使えるため、最大で1440万円の受給が可能なのです。

 

受給額を最大化できるかどうかのキーワードは「転換内容」と「生産性要件」の二つ。まず有期契約社員、パート、派遣社員などをどのように正規雇用化するかで助成金額が変わるため、自社の人材計画と照らし合わせて最適な方法を検討してください。

 

そのうえで助成額を割り増しできるかどうかは、いかに生産性を向上できるかにかかっています。顧問税理士に相談しながら人材投資を生産性アップに結びつけるロードマップをつくり上げ、計画的に対策を講じるといいでしょう。 

雇用保険の加入、管理者の配置といった条件あり

(受給できる会社の条件)

 

雇用保険に加入していること

 

●キャリアアップ管理者を配置していること

 

●対象労働者に対しキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けていること

 

●該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備していること

 

●キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んでいること

 

「キャリアアップ助成金」を受給するためには「事前手続き」が必要で、かつ「所定期間内に支給申請」をしなければなりません。事前手続きを忘れたり、申請期間をオーバーしたりすると受給できないため注意してください(図表2参照)。

 

[図表2]受給までの流れ

 

もう一つの注意点は「新規雇用時の対応」です。新しく雇用する際に「キャリアアップ助成金」を使う場合、まず有期雇用で採用して6カ月以上働いてもらったのち、正規雇用に転換しなければなりません。最初から正規雇用で採用しても受給対象にはなりませんので注意が必要です。 

本連載は、2018年5月28日刊行の書籍『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

寺田 慎也

幻冬舎メディアコンサルティング

経営者は公的支援をフル活用して業績を向上させよ! 税理士・社労士資格を有する経営コンサルタントが豊富な実例をもとにわかりやすく解説。

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