税務訴訟のプロである「訟務官」に勝つのは至難の業
「訴訟」になると、今度は法務大臣を相手どっての裁判、ということになります。もちろん法務大臣本人が対応するわけにはいきませんから、実際には法務大臣が指定する代理人が裁判にあたります。
指定代理人には、各国税局で訴訟を専門に担当している「訟務官」が選ばれます。「訟務官」は基本的に各国税局の課税部所属ですが、関東信越、東京、名古屋、大阪および広島の5つの国税局には、専門の国税訟務官室が置かれており、そこに所属しています。
この「訟務官」と、法曹資格を有する「訟務検事」とがタッグを組んで、税務訴訟にあたります。訟務検事というのは、国が被告となる裁判において代理人をつとめる検事のことで、法務省訟務局に所属しています。例外的に、弁護士が訴訟代理人として加わることもあるようです。
訟務官は、国税局から派遣されるいわば国税側の人間ですから、当然税務署の主張を通そうとします。税務訴訟のプロである訟務官を相手に戦うのはなかなか厳しく、結局のところ、「訴訟」を起こして裁判までいったところで、納税者側が勝訴することはそうありません。税務裁判が、医療過誤訴訟と並んで勝ちにくい裁判だといわれているゆえんです。
「再審査の請求」と「審査請求」はどちらが有利か?
今回の改正で、「再審査の請求」と「審査請求」が選択できるようになりましたが、当事務所の場合には、まずは「再調査の請求」を選択します。認められにくいといわれている「再調査の請求」ですが、当事務所では、一部認容を含め約半分の確率でこちらの主張が通っていますし、また、チャンスは1回でも多いほうがいいからです。
また、「審査請求」では公開裁決が採用されているので、審査の結果が公表される場合があります。メンツを重んじる税務署員にとって、負けた結果が公表されるのは当然避けたいことですから、万が一「審査請求」で税務署側が負ける可能性があると思えば、「再調査の請求」の時点で認容してくれるかもしれません。
平成25年(2013年)に「留置き」制度ができ、調査官が調査に使用する書類を税務署に持ち帰ることができるようになりました。税務署で時間の制限なくじっくりと調べられてしまうので、相続人・税理士側にとっては不利な制度です。
もちろん、このような制度ができたとはいえ、正当な理由さえあれば断ることができます。しかし、実際問題としては断るのは難しいでしょう。というのも、相続税の税務調査の「留置き」で一番多いのは「解約済みの通帳」なのですが、「解約済みの通帳」の預かりを断る理由というのは一般的にそうないからです。
ほかに「留置き」の多い書類としては、資料の数が多く、実地調査では見きれないもの、コピーや写真を取れないものなどがあります。