前回は、相続税の「生前対策」のポイントを取り上げました。今回は、相続争いが起こると税務調査が発生しやすくなる理由を見ていきます。

相続人代表が決まらず、各自が申告書を提出すると・・・

基本的に相続税の申告書は、代表者が1部だけ提出すれば十分です。被相続人の配偶者は高齢であることが多いため、たいていは長男、長女が代表者になることが多いです。その場合、税務調査もその代表者のもとに入ります。

 

しかし、相続でもめてしまって代表者が決まらない場合には、全員に弁護士、および税理士がつきます。

 

とはいえ実際は、相続人全員がバラバラの主張をすることは多くなく、派閥争いに発展することがほとんどです、たとえば長男グループと長女グループに分かれて対立、というようなパターンです。そういった場合には、各グループのそれぞれの税理士が、それぞれに相続税の申告書を提出します。

 

しかし、提出先の税務署は同じですから(被相続人の生前の住所の管轄税務署)、1人の被相続人に対して、2部の申告書が、1つの税務署に提出されるということになります。しかし、それら2種類の申告書は、微妙に相続財産額に差異が生じます。別々の税理士が申告しているためです。財産額が違えば、相続税額も違ってきますから、当然、税務調査が入る確率が上がります。

 

こういったリスクもあるため、できるだけ相続でもめることがないよう、今の内から対策しておきましょう。

財産の把握のために「税務調査」を依頼するケースも

相続人が望めば、税務調査をこちらからお願いすることもできます。どのように税務調査を依頼するのかというと、当事務所では、申告書の一番上に「預金が多く引き出されていますが、どうも長男が引き出したようです。ひいては、税務調査において明らかにされることを望みます」というような内容の手紙を添付して税務署に提出しています。

 

基本的には入らないほうがよい税務調査ですが、先程の例のように、相続でもめた場合には、かえって調査に入ってもらったほうがよいこともあるのです。

 

どういうことかというと、相続でもめていて、かつ話し合いもできないような険悪な状況の場合には、申告しようにも相手方の財産を把握できないので、税務調査で明らかにしてもらうのです。申告時には、正確なデータがないのでとりあえずはおおよその額で申告します。そしていざ税務調査が入って全体の財産額が明らかになったら、遺産分割協議をやり直すのです。

 

本連載は、2017年12月刊行の書籍『相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

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