前回は、加算税制度の改正において、「調査通知」時点で罰則対象となった背景を取り上げました。今回は、平成28年4月1日より適用された「国税不服申し立て制度」改正の概要と、いまだに「不公平感」が残る理由を見ていきます。

直接審査請求と再審査の請求を選べるようになったが…

平成26年(2014年)6月、国民が行政庁に不服を申立てる「行政不服審査法」の改正にともなって、国税不服申立て制度も改正されました。改正後の制度は、平成28年(2016年)4月1日以降の処分についての不服申立てから適用されています。

 

これまで納税者は、税務署長等が行った処分等に不服がある場合、税務署長等に対して①「異議申立て」を行い、異議決定後の処分にも不服がある場合には、1カ月以内に国税不服審判所へ②「審査請求」を行っていました。そして、それでもなお納得がいかない場合には、法務大臣を相手どって③「訴訟」を起こすことになっていました。

 

しかし、単純に件数が膨大であることと、納税者の利便性を考慮して、「異議申立て」は廃止され、代わりに設けられた「再調査の請求」と、「審査請求」のいずれかを、はじめから選択できるようになりました。また、請求期限も2カ月から3カ月に延長されました。

 

[図表]国税不服申立て制度の改正の概要

 

そもそも「異議申立て(現・再調査の請求)」は、はじめに課税処分を下した税務署内で審理を行い、かつ同じ税務署長が判断を下すわけですから、納税者の主張が通るケースは非常にまれでした。税務署が一旦自分で下した結論を覆すことは、正直あまり考えられないからです。

 

そういった事情があったので、税理士業界では改正前から、「再調査の請求」をとばして直接「審査請求」を行う納税者が多数出るのでは、と予想されていました。

 

実際、改正前は年間3191件以上行われていた「異議申立て」ですが、改正後には、約半分の1674件(なお平成28年/2016年は改正の過渡期にあたるため、「再調査の請求」と「異議申立て」が混在)にまで減少しました。逆に「審査請求」の数は、改正前より18.6%増加し、2488件でした。

 

相続税・贈与税において、直接「審査請求」のあった件数は年間58件と、改正前である平成27年(2015年)から、大幅に増加しました。

 

●「異議申立て(現・再調査の請求)」推移

改正前の平成27年(2015年) 全体3191件/相続・贈与284件

改正後の平成28年(2016年) 全体1674件/相続・贈与140件

 

●「審査請求(直審のみ)」推移

改正前の平成27年(2015年) 全体368件/相続・贈与5件

改正後の平成28年(2016年) 全体1473件/相続・贈与58件

国税不服審判所の職員は、税務署からの出向組が大半

しかし、この改正によって納税者側の主張が通りやすくなったのかといえば、決してそういうわけではありません。

 

「異議申立て(現・再調査の請求)」が、あまり勝ち目がない制度であるのは先程説明したとおりですが、一方の「審査請求」も、公平さという観点では、正直「異議申立て」と大差ないのです。国税不服審判所の職員のほとんどは税務署からの出向組ですから、審判の組織として公平性を欠いているといわざるを得ません。一部民間の税理士や弁護士もいるにはいるのですが、ごく少数です。実際、約9.3%しか、納税者の主張は通っていません。

 

結局のところ、「審査請求」も「再調査の請求」も、するだけ無駄だという税理士もいます。

本連載は、2017年12月刊行の書籍『相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

ある日国税庁からかかってきた一本の電話。 その電話だけで、何百万円と課税をされてしまう可能性があること、あなたは知っていますか? 「マルサの女」という言葉が流行ってから、国税庁の担当者が税金の調査をしにくるこ…

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