「住民全体を巻き込む」ことが、理事会の大きな役割
1回目の大規模修繕工事が、管理組合として初めて全メンバーで臨むビッグイベントになるというケースは、多くのマンションに共通したものではないでしょうか。
つまり、それまでマンション全体のことを考えたこともない住民たちを、ひとつの目的のためにまとめられるかどうかが、大規模修繕工事の成否に大きくかかわってくるのです。それは、全員が自分たちの資産を守ることや、共同体として同じ事業を成し遂げることに関心を持つようになることともいえます。
このハードルを越えることで、マンション管理組合は能動的に動き出すはずです。実際、このビッグイベントを利用してマンション共同体というコミュニティを強化できれば、マンションそのものの未来が変わってくるのです。
ですから、この機会に住民全員を巻き込む仕掛けをつくることこそ、理事会が担うべきもっとも大きな役割なのです。なぜなら修繕計画や修繕工事だけであれば、設計コンサルタントや工事会社に委託し、請け負わせさえすれば進められますが、管理組合全体を巻き込むことは理事会にしかできないことだからです。その度合いは理事会のエネルギーの掛け方次第となります。
たとえば、理事会がマンションに関してのさまざまなことを知ることから始めたように、その知識を管理組合全体の知識に波及することができれば、管理組合は相当にレベルアップします。
一例として、理事会は修繕計画から工事完了まで、なるべくたくさんの情報をマンション全体に発信し、住民の意見の受け皿となる方法です。諮問機関の修繕委員会を設置して技術的な検討を行うようにさせることで、理事会はより広報活動にエネルギーを割くことが可能になります。
改善計画に「居住者の関心が強い箇所」を入れ込む
また、多くの居住者に関心を持ってもらうためには、あえて全員が興味を示すような工事箇所の改善計画等を計画に盛り込むことも有効です。大きなものである必要はありません。ほんの少しの改善でも十分です。マンションのエントランスであれば壁紙を少しきれいなものにしたり、照明をおしゃれなものに変えたりするだけでも、十分な変化を伝えられ興味を持ってもらうことができます。
外壁がタイル仕上げのマンションなどでは、築10年程度ではまだまだきれいで、大規模修繕の必要などないように思われる方もいらっしゃいます。確かに、建築材料や工法などはマンションの半世紀の歴史の間に、品質や耐久性の点でかなり向上しています。実際に建物調査診断結果の統計を見ても、初めての大規模修繕工事では、あまり大掛かりな劣化補修をする必要のないケースが増えてきています。とはいえ、将来的な建物の維持を目的とした劣化補修工事が、ある程度までは必要になってくることは避けられません。
このように劣化補修工事というものは大規模修繕に欠かせないものであり、必要性に駆られて行うものです。期間中は足場や養生シートに覆われて、生活は不便なものになります。やっと工事が終わったとしても、目新しさや見違えるような変化が実感できるものではありません。
劣化補修だけでは工事そのものが盛り上がりに欠け、その場に立ち会った住民にとっては達成感を得られないまま終わってしまうこともあります。そんなときに、先ほど例に挙げたような壁紙の色を変えるといったレベルの修繕が役立ちます。ローコストでありながら、空間を見違えるように変えられるという点で非常に費用対効果が高いようです。さらに使い勝手が悪くて我慢していたことが解消されれば、居住者全員が喜んでくれます。
初めての大規模修繕工事の目的のひとつは、すでに述べたように全員で喜びを分かち合う体験をすることです。それがマンションの未来をつくる足がかりとなります。
「大規模修繕はいいものだ」という体験をしてもらうことが、長くマンションを維持していくためには大切になってくるのです。管理組合の全員にその実感を持ってもらうことを意識して、理事会は1回目の大規模修繕工事を計画・実施すべきでしょう。