前回は、大規模修繕工事の理事会計画とスケジューリングのコツを見ていきました。今回は、大規模修繕工事で最優先されるべき「マンションの安全性」に付いて取り上げます。

大規模修繕の調査時に「簡易防災チェック」を

マンションは「安全」であることがすべてに優先されるということは皆さんもお気づきだと思います。安全と一言でいってもさまざまな「安全」の要素があります。

 

私どもは「安全」という項目をいくつかの項目に分け、それぞれの評価をすることで各々のマンションの安全性の評価を行い、それらの是正を大規模修繕のなかにおいても改善できるようサポートを続けています。

 

ここでは、改めて大切なマンションの安全を得るための防災対策をお話しします。

 

防災対策チェック結果の例自分たちのマンションがどのような安全性を確保できているかを知ることは、マンションに住む人々にとってとても大切なことと思われます。

 

災害の種類によりさまざまな調査は必要ですが、総合的な防災チェックシステムができあがっています。できる限り大規模修繕の調査時に簡易防災チェックを行い、自分たちのマンションの安全性・危険性を認識することは大変重要であると思います。

 

改善可能範囲は大規模修繕のなかで、できる限り改善していくことで安全性を向上させることが可能です。

耐震診断は結果よりも、それを受けての「対応」が重要

大規模修繕のタイミングで、建物の耐震性能を判断するための耐震診断を行いたいというマンションが増えています。多くのマンションの耐震診断を行った経験から、耐震診断の実際について注意していただきたいのは、耐震診断によって、建物が安全になるわけではないという事実です。

 

耐震診断の結果とは、それぞれのマンションの耐震性を過去の地震被害から確率論的に判断した安全性を数字として明らかにすることです。実は経験を積んだ技術者であれば、建物の構造設計図書(設計図)を見れば、耐震性能の数字は推定できます。

 

耐震診断とは、その推定値を裏付ける作業ということになります。診断には一定の意味がありますが、それによってなんら安全性が改善するわけではありません。大切なのはこの数字が出た結果に対して、どう対応していくかなのです。

 

[図表]防災対策チェック結果の例

 

 

診断結果で出てきた数字に対して自分たちはどう対応すべきかを、特に理事会のメンバーは十分検証しなければ意味がありません。たとえば、旧耐震基準により設計された建物であれば、安全基準を満たさないことは当然の結果です。

 

古い設計基準で設計された建物に耐震診断を施しても、現在の基準を満たしている数値が出ることは非常にまれでしょう。しかも、重要なのは安全基準に達しないことがわかったからといっても、ほとんどのマンションでは補強工事を行うことで基準を満たす数値に改善できた事例が少ないという事実です。

 

重要なポイントを繰り返します。耐震診断の結果、基準を満たしていないという事実が明らかになったあとに、どう対応していくのかを判断することがもっとも難しいことなのです。これは単なる大規模修繕工事以上の難題ですから、その対応を図りながら理事会をサポートしてくれる専門家の知恵を借りることが必要になってきます。 

本連載は、2017年12月18日刊行の書籍『改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本

改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本

貴船 美彦

幻冬舎メディアコンサルティング

大規模修繕工事のタイミングは? コンサルタントはどうやって選ぶ? マンション理事を楽しむための秘訣が盛りだくさん! 自分たちが住む場所だからこそ、自分たちでよくしていきたい――。マンション理事と聞いて、堅苦しい…

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