前回は、大規模修繕工事で最優先されるべき「マンションの安全性」について見ていきました。今回は、マンションの耐震補強工事に顕在する課題に付いて取り上げます。

補助金では無理…基準を満たす補強ができない現実

耐震補強工事にはまだまだ課題が多いのが現実です。現状ではマンションの耐震補強工事に対する補助金は決して多くありません。しかもその補助金は指定された基準を満たすことを前提としたもので、マンションの補強に対してはあまり期待できないといっていいでしょう。その結果、資金が絶対的に不足してしまい、ほとんどのマンションは補強ができないのです。

 

業界の目安としては、築年数が古いいわゆる新耐震設計以前のマンションに耐震補強を施す場合、一住戸当たりの平均負担額は数百万円以上にもなるといわれています。こうした理由からも、ほとんどのマンションには、耐震診断は行っても基準を満たす補強はできないという現実がのしかかります。それを前提に、さまざまな判断をせざるを得ないのです。

人命の確保を第一に考える補強だけは行うべき!

コンサルタントとしての意見を求められた場合、私たちは次のような話をすることになります。

 

判定結果の数値が非常に低い場合は「地震が来たら覚悟をしてください」と正直なところを申し上げます。どんな覚悟が必要なのかといえば、それは「壊れることを受け入れる」覚悟です。耐震基準値を満たさないマンションは、建物が地震で大破したり、中破したりする可能性が高いことは間違いありません。なかでも考え得る最悪のケースは、マンションそのものが崩壊してしまうことです。崩壊とはつまり建物がつぶれたり、倒れたりする状況ですから、居住者の方々が生命を失うことを意味しています。

 

そのような条件が明らかになった場合、最良の選択は生命を守ること、すなわち崩壊を防ぐことに尽きます。補強の有無にかかわらずマンションが壊れてしまうのであれば、いずれにせよ震災後に居住できなくなるということは受け入れざるを得ません。そう考えると、まず何を置いても、地震で人が死なないような、人命の確保を第一に考える補強だけは行うべきとわかるはずです。

 

「地球」対「マンション」という関係で地震という条件を考えれば、マンションに勝ち目はありません。そこでは、どう負けるかを考えていくべきなのです。建物を補強するのではなく、人命確保の補強手法を考えていく方向を目指さなければなりません。それによって比較的小さな資金でもさまざまな補強を実施できる可能性が出てくるからです。その段階をクリアしたうえで、さらに追加資金が捻出できるのであれば、次に建物大破による二次被害に備えていくべきでしょう。 

本連載は、2017年12月18日刊行の書籍『改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本

改訂版 マンション管理組合理事になったら読む本

貴船 美彦

幻冬舎メディアコンサルティング

大規模修繕工事のタイミングは? コンサルタントはどうやって選ぶ? マンション理事を楽しむための秘訣が盛りだくさん! 自分たちが住む場所だからこそ、自分たちでよくしていきたい――。マンション理事と聞いて、堅苦しい…

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