平成30年度の中小企業白書には、「M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」と題した、戦略的な経営統合を含めたM&Aについての非常に有益な記述が掲載されています。しかしながら、一般の経営者や支援者が読み解くには、少々難解であるといえます。3回目となる今回も、引き続きその内容を読み解いていきます。

買収ニーズは金融機関に集まっている!?

買い手としてのM&Aを行う際の相手先の探し方を見ていくと、「金融機関に探索を依頼する」を挙げる企業が多くなっています。また、M&Aを実施した企業では、「自社で独自に探索する」という割合が高くなっています。つまり、買収ニーズは金融機関に集まる状況だということです。


これは、M&Aが成立した場合、買い手は買収資金を金融機関から調達するケースが多いからでしょう。この一方で、買い手側に融資を実行したい金融機関も、想定される買い手候補に対してM&A情報を積極的に提供しています。


そうであれば、幅広い買い手情報を集めたいと考える売り手は、金融機関に売却ニーズを提供すべきということになりそうです。

 

[図表1]後継者の有無別に見た、買い手としてのM&Aの相手先について重視する確認事項

資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。

 

次に、買い手としてのM&Aの相手先について重視する確認事項を見ていくと、「直近の収益状況」を挙げる企業が最も多く、次いで、「借入等の負債状況」、「事業収益の成長性や持続性」が続きます。

 

そうであれば、売り手がM&Aを実現させるポイントとして、直近の収益(利益)を右肩上がりにしておくこと、借入金の返済を進めておくことだと言えます。

 

[図表2]後継者の有無別に見た、売り手としてのM&Aを行なう際の相手先の探し方

資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。

買い手・売り手の事業間のシナジー効果に期待

一方、売り手としてのM&Aの相手先の探し方について、後継者がいない企業では、基本的に「金融機関に探索を依頼する」こととしつつも、「自社で独自に探索する」という回答が多くなっています。親族外の事業承継を行う売り手は、最適な相手探しに真剣に取り組んでいる状況がうかがわれます。

 

経済の構造的な変化により、中小企業が継継的に売上規模の成長を図っていくことはますます難しくなっています。加えて、経営者の高齢化と後継者不在を抱える企業でM&Aが事業承継の手段として有効な選択肢となっています。こうした背景から、中小企業のM&Aが近年着実に増加しています。


実際に買い手としてM&Aを実施している企業は、商圏の拡大や商品・サービスの拡充による売上・利益の増加を通じ、付加価値を向上させ労働生産性の向上を図っています。こうした付加価値向上を図るためにも、買い手・売り手の事業間のシナジー効果を発揮しなければなりません。


買い手は、売上・市場シェアや事業エリアの拡大の手段として活用を検討する一方で、売り手は、事業の承継の手段として検討されており、こうしたニーズ同士を結び付けていくことが中小企業の生産性向上のみならず、我が国経済の生産性向上にも資すると期待されます。

 

 

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