平成30年度の中小企業白書には、「M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」と題した、戦略的な経営統合を含めたM&Aについての非常に有益な記述が掲載されています。しかしながら、一般の経営者や支援者が読み解くには、少々難解であるといえます。前回に引き続き、その内容をわかりやすく読み解いていきます。

新事業展開など「前向きなM&A」が増加している

我が国企業のM&Aの件数について(株)レコフデータの調べによると、2017年に3,000件を超え、過去最高となっており、M&Aは活発化していると推察されます。

 

[図表1]M&A件数の推移

資料:(株)レコフデータ調べ
資料:(株)レコフデータ調べ

 

M&Aの実施目的は、「売上・市場シェアの拡大」が最も多く、次いで「事業エリアの拡大」となっており、付加価値向上を企図してM&Aを行う企業が多いことがうかがえます。また、2009年以前は「経営不振企業の救済」を挙げる企業の割合が高く、2015年以降は「新事業展開・異業種への参入」を挙げる企業の割合が高くなっています。すなわち、後向きなM&Aから前向きなM&Aに変化している状況が見られます。

 

[図表2]M&Aの実施時期別に見た、M&Aの実施目的

資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)1.複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)1.複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

 

M&Aの相手先を見付けたきっかけについては、「第三者から相手先を紹介された」という割合が42.3%を占めており、「金融機関」や「他社(仕入先・協力会社)」、「専門仲介機関」が多くなっています。他方で、「相手先から直接売り込まれた」という企業も30.2%おり、「自社で相手先を見付けた」というという企業27.5%と合わせると、相対でのM&Aは57.7%と過半数を超えていることが分かります。


これは、中小企業は、社長個人の営業力に事業価値があるなど、その経営資源に個性が強いことから、現実的には買い手が同業他社に限定される傾向にあり、M&A仲介業者によって紹介を受けるというよりも、経営者が最適な相手だと考える身近な同業他社を選ばなければ、M&Aによって事業価値が存続できないことが原因と考えられます。

 

[図表3]M&Aの相手先を見付けたきっかけ

資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。

 

売り手の経営者年齢とM&Aの目的では、経営者の年齢が60歳代や70歳代以上の場合、「事業の承継」を目的とする割合が最も高くなっています。これは、経営者が高齢となり、後継者不在の企業でM&Aが事業承継の手段として活用されていることがうかがわれます。

 

他方、経営者年齢が40歳代以下の場合は、「事業の成長・発展」を目的としてM&Aを行う割合が他の年代よりも高くなっており、事業承継ではなく企業の成長戦略としてM&Aが活用されていることがうかがえます。

 

[図表4]M&Aの相手先経営者年齢別に見た、相手先のM&A目的

資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)1.複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
資料:三菱リサーチ&コンサルティング(株)「成長に向けた企業間連携等に関する調査」(2017年11月)
(注)1.複数回実施している者については、直近のM&Aについて解答している。
2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。

「M&Aを実施」「M&Aを想定」している企業の事例

<事例>株式会社河西精機製作所

 

後継者難から倒産した企業の事業を引き継ぎ、サプライチェーンを維持し、事業領域の拡大をした企業。


「自動車部品は、電子部品と異なる加工のノウハウや技術、認証制度への対応が必要であり、一から取引先を開拓すると大変時間が掛かります。確かな技術を持つ人材や、大手との取引口座の引継ぎは、大変魅力に感じました。地元でも廃業する企業が増える中で、小さいながらも優れた技術や人材のいる事業について、廃業する前に情報を入手できれば、引き継いでいきたい。」と河西克司社長は話しています。


<事例>ツルヤ化成工業株式会社

 

「今後、人口減少が進む中である程度の企業規模にならなければ、事業を継続していくことが難しくなるのではないか。M&Aは、事業の取得や相手先の事業承継という効果だけでなく、人手不足の時代に採用のコストを掛けずに労働力を得られるという点でもメリットがある。買収先は小規模事業者でも良く、機会があればM&Aを実施していきたい。」と齋藤茂樹社長は語っています。

 

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