刑事の仕事に必須な「ウソを見抜くスキル」
あなたが刑事ドラマでよく見るシーン、それがまさに刑事の仕事です。
「取調べ」「事情聴取」「尾行・張り込み」「聞き込み」「犯人の逮捕」「家宅捜索」・・・。その中で特に重要な仕事が「取調べ」や「事情聴取」という「人から情報を引き出す作業」です。
この作業の難しさは、「相手が真実を話しているかわからない」という疑問からはじまることにあります。
まずは、犯罪者。彼らは基本的にウソを言います。誰しも自分の身がかわいいからです。
犯罪者は「自分だけが悪いわけではない」「他に比べたらたいした悪さではない」「少しでも罪を軽くしたい」と思います。自己防衛本能が働くからです。私の経験から言うと、犯罪者が心底本当のことを話してくれる確率は、全体の60%程度です。
それから被害者。被害者感情から「絶対に許さない」という強い気持ちになります。詐欺などの被害にあった場合、自分の落ち度を知られたくないという心理も働きます。そのため、被害程度を誇張したり、デタラメを言うこともあるでしょう。
さらに被害に遭っていないのに、特定の人を罪に陥らせるためにウソを言う人もいます。
最後に目撃者などの参考人。もちろん積極的に協力してくれる方もいますが、そんな方ばかりではありません。
「忙しいから事情聴取を早く終わらせたい」「何度も呼び出されるのは面倒だ」と思っている人もいます。つまりウソはつかないまでも十分な説明はせず、その場に合った適当なことを言う人もいます。
そう考えると、刑事はこれらの捜査対象者が「真実を述べているかどうかを判断する能力」がどうしても必要になります。それが「ウソを見抜くスキル」なのです。
失うものが大きい人のウソほど見抜きにくい
私は知能犯担当の刑事が長く、いろいろな職種や立場の方の取調べや事情聴取を担当してきました。その中でも特に難しかったのは政治家や経営者でした。
一国一城の主は背負っているものが違います。ウソは背負っているものの違いで強固にもなり、軟弱にもなるのです。
例えば、県会議員や市会議員などの政治家。
彼らは辞任したらタダの人です。立候補するにあたり、大きな借金をして選挙に臨み、苦労してやっと当選したのかもしれません。そして掴んだ議員報酬は1千万円以上になることもあります。それが辞職したらゼロになります。家族がいたら、明日から路頭に迷ってしまいます。
ですから、「怪しい橋を渡っても捕まらなければ・・・」と考える方もいて、いざ取調べになると必死に抵抗します。
まして彼らは市民、県民から選ばれた代表です。彼らの背後には何千票、何万票の支持があります。その時点で彼らは一般人とは違うという自負がありますし、市民の立場で役所を監視監督するという意識もあります。というわけで、簡単に事実は認めません。その結果、取調べも困難を極めるのです。
経営者も同様です。
個人的に起こした犯罪について擁護する気はありませんが、談合や偽計競売妨害などの犯罪は会社の利益のために行うケースがほとんどです。そのため、そもそも悪いことをしたという意識が薄くなります。
その上、仮に検挙されると公共工事の指名停止処分や、社会的信用の欠如などあらゆるハンデを背負うことになります。その結果、下手をしたら倒産するかもしれませんし、家族同然の社員も解雇せねばなりません。当然ですが、簡単には認められないので抵抗するのです。
人間というのは失うものが大きければ大きいほどウソが強固になり、結果としてウソが見抜きにくくなるというわけです。
妻の直感が鋭い理由
また、「男性と女性ではどちらの方がウソがうまいか?」という質問をされることがあります。私の個人的な経験からすると、女性の方がうまいと思います。
取調べの場面では、男性は目を反らして視線を合わせない方が多いのです。ところが女性は逆に目を合わせてくる方が多い。女性は刑事の顔を見ながら「自分のウソが見抜かれていないか」を見抜こうとしているのでしょう。ですから私は、女性の取調べは苦手でした。
生物学的な視点からも、それは言えます。
男性は怪しい人物や危害を加えようとする人物が近寄ってきたら、腕力でカバーすることができます。ところが女性は腕力では身を守れません。ですから、直感や匂いなど五感の作用を総動員してウソを見抜いたり、ウソをついたりして身を守ることになるのです。妻の直感が鋭いのは、そんな理由なんですね。
やはり女性にウソをつくのはやめた方がよさそうです。