言い分が不自然、納得しがたい、疑念が3つ以上ある・・・
ウソは相手が「実はウソをついていました」と自供して、はじめてわかります。つまり相手が自供しないかぎり、ウソだということはわからないのです。
しかし、どこかの段階で「ウソをついている」と確定しないと、追及が緩んだり、事実関係の調査が先に進まない場合があります。
疑いを解明したい立場からすると、何かの基準に達したら「こいつはウソをついている」と明確にできると楽になります。
そこで私は一定の条件を満たしたら、自供がなくても「ウソを推定する方法」を用いていました。これを「3点疑念のウソ推定法」と言います。
会話をしていて、相手がウソをついているのではないかと思う場合があります。当然ですが、その疑念を解明するために質問をします。
そのとき、質問の返事が「一般常識に照らして不自然な答え」であり、「誰が聞いても納得できない」と認められる場合には、疑ってください。そして、内容の違う疑念が3つ以上になったときには、「ウソである」と推定します。
これは故意に真実を捻じ曲げたときに起こるのです。真実をウソで無理やり捻じ曲げようとするのでどこかに負担がかかり、不自然さが生まれます。その結果、誰が聞いても納得できない話になってしまうというわけです。
ウソを推定できれば、追及の手を強められる
ひとつの事例をお話しします。競泳の富田尚弥選手による韓国でのカメラ窃盗事件です。
この事件は2014年アジア競技大会期間中の9月25日、韓国仁川文鶴競技場で、韓国人記者のカメラ(約800万ウォン相当、日本円で70万円程度)を、記者が離席中にレンズを取り外し、本体のみを盗んだとされた事件でした。
富田選手は、翌9月26日、50メートル平泳ぎに出場し予選敗退後、仁川南部警察署から事情聴取を受け、犯行を認めました。
犯行の動機については、「見た瞬間、欲しくなった」と供述していました。被害品については選手村の冨田選手の部屋の鞄から見つかりました。これにより、日本選手団から追放され、出国停止処分を受けたのです。
ところが彼は、帰国後の2014年11月6日、名古屋市内で会見を開き「カメラを盗んだ事実はない」と訴えました。冨田選手は韓国警察の取調べについても、最初から犯人扱いで通訳に「認めないなら、韓国に残されるかも知れない」と言われ、きちんと話す機会を与えられなかったと主張しました。
彼の言い分は、
●プールサイドに座っていたところ、緑色のズボンをはいた東アジア系の男から手を掴まれ、持っていたポーチに黒い塊のようなものを入れられた。危害を加えられると困ると思い、驚いてその場を離れた
●バスでの移動中でもポーチの中は確認することはなく、この出来事を誰にも言わず、宿舎に持って帰った
●中にはカメラの本体部分が入っていたがゴミだと思って捨てる場所もなかったので捨てなかったなどと説明しました。
彼の説明が真実だと仮定した場合、いくつもの疑念が生じます。一般常識で考えると、
●他人から自分のポーチに何かを入れられたら、何を入れたのだろうか? と中を確認する
●プールで不審者に手を掴まれれば他の選手にも危害を及ぼす可能性もあり、警備員に通報する
●怖い思いをしたのでバスの中で選手仲間に出来事を話す
●宿舎に持って帰ったあと、盗んだという言いがかりをつけられないように本部や上司に報告する
などの行動が考えられます。
つまり彼は「一般常識として不自然な答え」をして「誰が聞いても納得できない」という条件を満たしています。そして3点以上の疑念が解消されていません。ですからこのケースではウソを推定して構わないのです。
私の個人的見解ではありますが、彼は本当の事実を無理に変更しているのでこんな結果になったのだろうと思います。
ちなみにこの事件は韓国で正式裁判になり、裁判所は「被告の説明には信ぴょう性がなく、信用できない」として有罪判決を出し、判決は確定しています。
私が犯罪者の取調べをしていたときも相手の言い分が不自然であり、誰が聞いても納得できないケースが多くありました。
そんなときは、「3点疑念のウソ推定法」で「ウソであると推定」し、追及を強めたり、証拠との照合を重ねてウソの事実を固める作業をしていました。
これは取調べする側が「疑心暗鬼にならないための推定法」と言えるかもしれません。