家賃収入を想定利回りで割り戻す「直接還元法」
信用毀損について、ここでもう少し詳しく説明しておきます。物件の時価がローンの残高を下回っている状態を信用毀損、または債務超過といいます。含み損が発生しているわけです。
赤字が出ており、かつ債務超過という状態は賃貸経営としてかなり危険なので、早く兆候に気づいて対処しなければなりません。含み損があるかどうかで、売却時の対応も大きく変わります。
ローンの残高は返済明細表を見ればわかりますが、時価を知るには専門的な知識と経験が必要です。これも不動産投資に明るい業者に相談して調べてもらうとよいでしょう。時価とは、いま売却したらいくらで売れそうかという価格です。価格査定の方法は、売却時にも重要になるので、しっかり理解してください。
収益不動産の価格査定で主に使われるのは、収益還元方式の一種である直接還元法と、積算方式です。この2つを算出し、勘案して調整します。取引事例比較法という、過去に行われた同じような物件の取引価格を参考にして求める方法もありますが、ほとんど使われていません。居住用の不動産に比べて、収益不動産は価格に影響する条件が多岐にわたるので、よく似た物件というものがあまりなく、現実的ではないのです。
直接還元法は、家賃収入を想定利回りで割り戻す方法です。想定利回りは多分に推測的なもので、経験と予測によって導き出します。キャップレートともいいます。
想定利回りは地域ごとに平均的な事例を参考にして決めた数値を参考に、物件の条件による細かい部分を調整します。収益物件の売買経験が豊富な業者であれば、東京の想定利回り、岡山の想定利回り、同じ岡山県内でも岡山市の北区は、中区は・・・と細かく把握しています。住居か事務所かなどの種別、木造か重量鉄骨かなどの構造、築年数によっても違いが出ます。
つまり、想定利回りは1.立地、2.種別、3.構造、4.築年数というおおむね4つの要素より、経験則で導き出します。取引事例があれば、証拠資料としてつけると、より評価の信頼が高まります。
こうして決めた想定利回りで満室想定家賃収入を割った数値が、直接還元法による査定価格です。家賃収入も事例をもとに想定します。時価評価の精度を高めるには、収益不動産の売買経験が豊富な業者に調査を依頼することが重要です。
「いくらで売れるか?」に着目した積算評価
収益還元法は、「いくら儲かるか?」に着目した方法といえます。これに対して、積算評価は「いくらで売れるか?」に着目した方法です。手順としては、まず路線価で土地の価格を算出します。国税庁のホームページや「全国地価マップ」というサイトに載っています。固定資産税評価額を使うこともあります。
建物の価格は、平米あたりの単価に面積をかけ合わせ、減価償却分を考慮します。単価は構造によって異なり、例えば木造なら15万、鉄骨鉄筋コンクリートなら22万円、鉄筋コンクリートなら20万円といった具合に決めた数字を使います。評価をする人(ローン審査時の金融機関や売却査定時の不動産業者など)によって使う単価は異なります。
減価償却分は、法定耐用年数のうち、すでに経過した分を差し引くことで加味します。法定耐用年数は、木造22年、重量鉄骨34年、鉄筋コンクリート47年です。
例えば、土地が400平米、鉄骨鉄筋コンクリート造り600平米、築21年のマンションの場合。路線価は20万円/平米、建物の単価は22万円/平米だとします。土地の積算評価は20万円×400平米=8,000万円、建物は22万円×600平米×(47年〈法定耐用年数〉−21年〈既経過年数〉)/47年≒7,300万円、合わせて1億5,300万円が積算方式による評価額となります。
ローンの査定においては、金融機関によって掛目といって積算価格に0.7、0.8などの一定割合をかけ合わせた数字を使うこともあります。
売却時の価格査定では、この2つの方法で算出した数値を勘案し、実勢価格なども参考にしながら現実的な値に近づけていきます。
この金額がローンの残債を下回ると、信用毀損となります。株やFXでいうところの含み損をかかえた状態です。放っておけば、その損失はどんどん膨らんでいくおそれがあります。そうなると、売りたいときに売れず、特に赤字を抱えている場合はもっと損をするかもしれません。
ただでさえキャッシュフローが赤字で、さらに含み損まで抱えていたら、かなり恐ろしいのではないでしょうか。
収益不動産の価格査定は経験が左右するところが多分にあり、自己診断はなかなか難しいものです。心配な人、特に赤字を抱えていて売却が必要になる可能性がある人は不動産業者に相談したほうがいいでしょう。