一時3.0%超えに至った10年米国債利回り。過度な長期金利上昇のリスクを避けるべく「緩やかな上昇」を示唆するFRBではあるが、債券市場が寄せる信頼どおりにインフレをコントロールできるのだろうか? 明確な方向感を欠く米長期利回りの現状と問題点を解説する。

FRBによる「長期資産の保有」は粛々と減少

このところの、FRB理事たちの発言を聞くと、一部のハト派的な例外を除けば、「長期金利は景気やインフレの好転に伴って緩やかに上昇することが望ましい」との考えが示されている。一方で、米国金融市場では「税制改革によって潜在成長率が上昇する」との楽観論はほとんど聞かれない。

 

債券市場では、FRBが利上げによってインフレを適切にコントロールすることへの信頼感が強く、厳しく言えば債券市場は、長期金利が過度に上昇しないよう慎重に対応しているFRBが「今後もそのスタンスを継続する」とタカを括っているフシがある。昨年秋からFRBが開始したバランスシートの縮小も、市場から買い入れる債券の削減額を3カ月ごとに段階的に増加させ金利上昇に繋がるような刺激をしないとの配慮をしている。

 

実際には、FRBによる長期資産の保有は、粛々と減少しているのだが、この事実に対する注目度は高まっていない。

「中短期債の発行で、長期債リスク回避」は現実的か?

米国経済は、今後出てくる税制改革の効果も含めて引き続き良好であり、FRBも着々と利上げを進めることに異論は少ないだろう。回数は別として、利上げ自体に疑問を差し挟む余地が少ないとなれば、その事実を再認識していくにつれて、中短期債の利回りには上昇圧力が働き続けることになる。

 

 

昨年9月に始まったFRBによるバランスシートの縮小も、市場での売却を行わず保有資産の満期償還によって購入量の削減を進める公算が高い。そして米財務省は、中短期債の重点発行によってリファイナンスするだろう。そうなれば、供給面での圧力は減り、長期債の利回り上昇圧力は抑制しうるかもしれない。

 

本来、長期金利の上昇リスクのうち最大・最悪の要因は米国の財政赤字を根源とすることである。10年後の米国債残高は、米国経済が比較的良好な成長率を維持したとしても、国内総生産(GDP)比で100%に近づくとの試算も出てきている。足元でも、税制改革の先行により、一時的に歳入不足が発生することから、米国債の増発が見込まれている。もちろん、米財務省も当面は中短期債を厚めに発行する方針であり、悪い金利上昇を抑制する姿勢を堅持する見込みである。

 

長期債の利回りは、ファンダメンタルズから見れば、当面の景気動向やインフレよりは、長期の経済成長やインフレに対する期待とリスクプレミアムが決め手となる。ただ、現段階では、明確な方向感を欠いている。そこで、気掛かりなのは、債券市場が「FRBの慎重な対応は変わらない」と期待しすぎていることと、「今後の米国経済の潜在成長率は上昇しない状態」とタカを括っていることではないだろうか?

 

昨年に、10年米国債利回りが3.0%まで上昇すると予想した者は少なかった。しかし、今それはもう現実となっている。危うい橋を渡っていることを、今一度考える必要があるだろう。

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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