企業プロジェクトの「公正価値」を求める具体的な手順①

今回は、企業のプロジェクトの「公正価値」を求める具体的な手順を見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

株・債券と同じく「将来キャッシュフロー」で判断

今回からは、企業があるプロジェクトへの投資可否を判断する際に使われている方法について見ていきましょう。

 

あるプロジェクトを実行に移す際は、必ず何らかの初期投資が必要になります。例えば、新商品を世に出すためには、工場に製造ラインを導入する費用や、人件費、広告宣伝費などがかかります。それらの初期投資は、プロジェクトが将来生み出す収益によって回収することが期待されています。つまり、企業のプロジェクトも、株や債券への投資と同じように、将来キャッシュフローによって投資金額を回収し、利益を得る仕組みになっているということです。

 

投資は、手元の現金で将来キャッシュフローを購入する行為と考えることができます。株や債券などの投資対象は、ファイナンス理論では将来キャッシュフローの系列に置き換えて考えるのでした。つまり、株や債券を購入するということは、それらが生み出す将来キャッシュフローを購入していることと同義なわけです。プロジェクトへの投資も同様で、プロジェクトが生み出す将来キャッシュフローを手元の現金で購入することに他なりません。そのため、プロジェクトの価値も、今までと同様にDCF法によって評価することができます。

「NPV法」による価値の計り方

具体的には、NPV法とIRR法という2つの方法がよく使われています。まず、NPV法から見ていきましょう。

 

①NPV法

最初はNPV法について説明します。これは、正式にはネット・プレゼント・バリュー法(正味現在価値法)と呼ばれ、英語表記「NetPresentValue」の頭文字を取ってNPV法と略されます。NPV法は、「①プロジェクトが生み出す将来キャッシュフローの割引現在価値」と、「②プロジェクトを立ち上げるのに必要な初期投資額」を比較する方法です。①が②を上回っている(プロジェクトが初期投資額以上の価値を生み出すと見込まれる)場合には投資可、①が②を下回る(プロジェクトが初期投資額以上の価値を生み出すことができない)場合は投資不可と考えます。

 

ステップ1として、そのプロジェクトが生み出す将来キャッシュフローを予測します。例えば、新商品に関するプロジェクトであるならば、その商品の売り上げ予想などをもとに、そのプロジェクトがどれくらいのお金を生み出すことができるか予測を立てるわけです。

 

次に、ステップ2を考えます。割引現在価値の計算に用いる期待収益率は、NPV法ではハードルレートと呼ばれます。投資可否の分かれ目となるハードルという意味です。ハードルレートの水準は、基本的には経営者やプロジェクトオーナーが個々に判断して決めるものですが、企業全体の期待収益率であるWACCを意識して決定する必要があります。なぜならば、ビジネス全体としてWACC以上の収益率を実現しないと、投資家の期待に応えられないことになるからです。そして、プロジェクト自体が持つリスクも考慮すべき重要な要素です。そのプロジェクトが「ハイリスク・ハイリターン」なものならばハードルレートを高く、「ローリスク・ローリターン」なら低く設定するのが妥当でしょう。

 

準備ができたところで、ステップ3に移りましょう。ここでは具体例を考えてみます。あるプロジェクトXは、期間が3年間で、初期投資に200百万第1章プライシング理論051円かかるとします。そして、将来キャッシュフローは下表のように推定されています。ハードルレートは10%とします。このプロジェクトの投資可否を判断してみましょう。

 

[図表]プロジェクトXの将来キャッシュフロー予想

 

プロジェクトが生み出す将来キャッシュフローの割引現在価値を計算すると、

 

 

となります。次に、プロジェクトのNPV(正味現在価値)を計算します。NPVは、この投資の正味の価値を表しており、プロジェクトが生み出す将来キャッシュフローの割引現在価値の合計から、初期投資費用を引き算することで求められます。この例の場合だと、NPVは、

 

NPV=191-200=-9

 

となり、マイナスになってしまいます。この数字が意味しているのは、「このプロジェクトの将来キャッシュフローは191百万円の価値しかないのに、その将来キャッシュフローを購入するのに200百万円もかかる。だから、買ったら(プロジェクトを採用したら)損をするぞ」ということです。

 

したがって、NPVがマイナスの場合、この投資は行うべきではないということになります。逆に、NPVがプラスの場合は、将来キャッシュフローを割安に(本来の価値より安い価格で)購入できるということなので、そのプロジェクトは採用すべきということになります。ちなみに、これらの計算を行うのに電卓を用いる必要はありません。エクセルのXNPV関数を使えば、NPVを簡単に計算することができます。

 

ここで注意して欲しいのは、将来キャッシュフローの単純な合計値は235百万円(=55+80+100)で、金額的には初期投資を回収できているという点です。企業は、投資家のお金(株主資本+負債)でビジネスを行っている以上、お金を提供してくれている投資家たちの期待する収益率を実現しなければなりません。そのためには、お金を効率的に増やしていく必要があります。いくら初期投資を回収できたとしても、収益率がハードルレートを下回っていれば、投資家を満足させることはできないのです。会社全体として効率よく稼ぐためには、収益率の低いプロジェクトは採用すべきではありません。そのため、ハードルレートを設定し、ハードルレートを上回る収益率を実現できないプロジェクトは切り捨てていくという発想をとるのです。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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