税金への影響を具体的な数字でシミュレーションする
相続税対策として不動産を購入したり建物を建てたりする時には、それをすることによって(あるいは、しないことによって)、どれくらい税金に影響があるのかを具体的な数字でシミュレーションする必要があります。
たとえば、「1億円の更地に1億円の借り入れをして賃貸アパートを建てると、貸家建付地になるから土地の評価額が2100万円低くなる。建物の評価額は4000万円だ。すると、相続税評価額はアパートを建てない場合よりも8100万円安くなる。これを生前に実行しておけば、他にも資産があるので、相続税は税率が50%とすると950万円だ。ということは、アパートで相続したほうが、更地で相続するよりも4050万円だけ得をする」というように。
つまり、資産の圧縮率を考えるということです。その一方で、そのアパートから上がってくる収益についても考えないといけません。
「1億円の借金をして建てたとする。相場からすると家賃は1室あたり月10万円。すると、常に満室で月100万円になる。しかし、管理コストや修繕のための積み立てなどで月に10万円がかかるから、実際には90万円の収益だ。これを20年で返済することができるか? 空室ができた時はどうなるか?」など。
資産の圧縮率と収益性のバランスを考える
すでにある建物を建て直したり大改修したりする時も注意が必要です。空室が目立つようになったアパートやマンションでは、業者から「建物が古くなったから入居者が集まらない。改築してはどうか」という話が出るでしょう。
この時、本当に建て替えてやっていけるのかを改めて考えるべきです。建物が古いから入居者が集まらないのか、立地そのものに魅力がないのか、空室の理由を冷静に判断します。
前者かどうかは、周囲の同じような建物の状況と比較すればわかります。周りに何軒もアパートがあってそれなりに部屋が埋まっているのに、自分のところだけ空室だらけというのであれば、建物や設備が古くなって競争力が落ちているのでしょう。それなら、時代に合ったものに建て替えれば、経営を盛り返せる余地はあります。
しかし、惜しくも後者だった場合は、いくら新しいものを建ててもやっぱり入居者は集まらないと思います。その場合、建て替え費用の分だけ傷が深くなります。それに、建物が元通りになるまでの何カ月もの間、賃料が入ってこなくなることも忘れてはいけません。
資産を圧縮するのは節税の面のいいことですが、見込んだほどの収益性がなく借金を返せないと、相続税どころか今の自分の生活さえ立ち行かなくなる恐れがあります。不良資産を持つことのおそろしさはここにあります。
不動産は「資産の圧縮率」と「収益性」、両者のバランスを見て、ちょうどいい頃合いで運用していくことが肝要です。また、現時点や近い将来のことだけでなく、20年先、30年先も視野に入れて検討しましょう。
ちなみに、節税のススメでよく使われる「借金をして建てたほうが節税になる」という常套句は、それが生きた借金である場合は正しいですが、そうでない場合は正しくありません。借金をして建てたアパートが20年後も収益を上げ続け、他の資産を圧迫しないのであれば、それは正しい借金です。しかし、借金の額に到底およばない収益しか上げられないアパートを建てたのであれば、それは危険な借金といわざるを得ません。
自分のお金で株式などの投資をする際には随分と慎重であるにもかかわらず、アパートを建てるために銀行から1億円を借りる時には躊躇しないという人が、多く存在するようです。銀行に借りると自分の懐からお金が出ていくわけではないので、その重みが実感としてわかりづらいのかもしれません。あるいは、お金のケタが大きすぎてリアルな感じがせず、金銭感覚が狂ってしまうのかもしれません。
しかし、アパートを建てることも株式を購入することも立派な投資の1つです。
ビジネスでは、紙の上の数字を見るのではなく、その数字の持つ意味を考えるようにしてください。数字そのものはただの記号であって、大事なのはその背景にある意味なのです。不動産賃貸業も立派な商売でありビジネスですから、しっかりそろばんを弾いて損得を計算していただきたいと思います。