提案の「理由」や「根拠」があいまいな業者は危険
きちんとした業者と、危ない業者を見極められるかどうかはとても重要です。おそらくほとんどがまっとうな商売をしている業者でしょう。しかし、中には顧客の幸せを第一におかない利益至上主義の業者や、「とにかく借りさせてしまえばいい、建てさせてしまえばいい」という〝遣らずぼったくり〞のようにしか見えない業者がいるのも確かです。
彼らは、少しでも資産家が耳を貸してくれそうだと見ると、毎日のように足繁く通ってきます。そして、手を替え品を替えして、
「少しくらい借金をしたほうが節税になりますよ。お金は貸しますから、最初の資金のご用意はほとんど要りませんので、ゆっくり返済してくだされば大丈夫です」
「アパートに空室が出ないように私どもで借り上げるので安心です」
「奥様やお子様のためにもいかがですか」
「年金代わりになります」
と甘い言葉で説得にかかります。そうして相手に冷静に考える隙を与えずに、その気にさせてしまうのです。
資産家の方は土地やお金はあってもビジネス感覚は素人同然の人が多いですから、「そんなものかな」「家族のためになれば」と納得してしまいがちです。そうして、ポンと書類にハンコを押せば、借金コンクリートのできあがりというわけです。
なんだか意地悪な言い方になってしまいましたが、実際にこういう業者は存在します。では、きちんとした業者と危ない業者は、どこで見分ければいいのでしょうか?
それは、持ってくる提案や計画の中身に信頼性や将来性が伴っているかどうかで判断できます。両者とも商売ですから、パッと見はどちらも立派な書類を持ってくるでしょう。しかし、心ない業者の場合は少し突っ込んで質問すると、中身の具体性に欠けていたり、なぜこれを提案するのかの理由や根拠があいまいだったり、リスクヘッジが脆弱だったりします。
たとえば、賃貸マンションを建てるかどうかという時に、駅からの距離や幹線道路沿いかどうかなどの立地条件を踏まえて、
「なぜ賃貸マンションが一番お勧めだと思うのか」
「なぜこの規模のマンションなのか」
「どんな借り手が予想されるのか」
「どのようにして空室リスクを回避するのか」
「それでも空室が出たら、どのような手立てがあるのか」
などを聞いたとします。そうした問いの1つひとつに、きちんと根拠を挙げて答えられるかどうかを観察します。
もし「みなさん、やっておられますよ」「いざとなったら、方法はいくらでもあるから大丈夫です」「難しいことはこっちでやりますから、任せてください」という答え方をするようでは危険です。
「みんなやっている」からといって、ここでもやれるとは限りません。「いくらでもある」というその方法が具体的でなければ、大丈夫だといいきることはおかしいでしょう。「難しいこと」こそ「重要なこと」のはずなのに、わかるように説明してくれないその理由が私にはわかりません。
借金コンクリートを自分の資産に仲間入りさせたくないのであれば、こうしたやりとりの中で、1つひとつの根拠を確認することが必要です。
一度建ててしまったら「後戻り」はできない
私の勝手な印象かもしれませんが、資産家、特に不動産メインの資産家の方々には、このあたりの感覚が十分磨かれておらず、自分の財産であるのにどこか業者任せにしている方が多いように感じられます。これは、相続に慣れていない税理士も同様です。
親や先祖から譲り受けた資産であるため、自分が必死になって手に入れたもののようには執着がなく、言葉は悪いですが「あって当然」のように感じている部分がどこかにあるのかもしれません。あるいは、不動産賃貸業はよくわからないが、やらないわけにもいかないという理由で、「できることだけやろう」と割り切っているのかもしれません。
資産家のみなさんにとっては耳の痛い話になってしまったかもしれませんが、「自分はそんなことはないのに、決めつけるようないい方をして」と不愉快に感じた方がいらしたら、まことに申し訳ありません。
ただ、私があえて厳しい言葉を選んだのは、〝一度建ててしまったら後戻りできない〞からです。一時の思い込みや楽観主義によって、負の資産をずっと背負い続けていかなければならない事態を防ぎたいのです。
あなたの資産を守るのは、あなたです。他人の意見を聞いて参考にすることはいいですが、最後に決断するのは自分であることを十分に肝に銘じていただければと思います。