「顧問税理士が間違った相続税対策をするわけがない」
資産家の人であれば、多くの場合、親しくしている顧問税理士がいるものです。父親の代から長い間付き合ってきて、信頼関係も築かれており、友人のように深い交遊をしている人もいることでしょう。そのような人であれば、筆者の著書のタイトルを見て、
「ずっと親しくしてきた顧問税理士に頼んでいるのだから、間違った相続税対策をしているわけがない」
と思われたことでしょう。しかし、相続税対策は、「顧問税理士と深い関係にあるかないか」とは別次元のところで考える必要があります。
その事実を裏付けるために、まずは、なじみの顧問税理士に相続の税申告を任せたことで悲惨な目にあった家族の話をしましょう。最初の段階として、顧問税理士に依頼することで、どのようなリスクを伴うかを考えていただきたいのです。それが、今後の相続税対策に対するいち早い意識の変革につながると思うからです。
普通のサラリーマンに「億単位」の相続税が発生
それは、バブル崩壊後に起こった相続の話です。東京近郊に、ある有名な大地主一族が住んでいました。仮にこの地主をAさんと呼ぶことにします。Aさんは60代、5人兄弟の長男です。父親はすでに他界しており、高齢の母親とAさん家族で同居していました。
Aさん一族が所有する土地は、自宅の土地や駐車場、借地人に貸している貸地、アパートやマンションなどが建つ貸家建付地など大小さまざまでした。その総額は30億円は下らなかったと記憶しています。
Aさん一族は代々、土地持ちでしたが、Aさんの父親がバブル時代にさらに土地を買い増したり賃貸物件を建てたりしたことで、これだけの資産になったようです。あの時代は土地の価格が右肩上がりに高騰していましたから、資産を現金で所有しているより不動産で所有しているほうが相続の際に評価額を圧縮でき、節税につながったのです。
しかしその後、ご存じのようにバブルは弾け、土地の価格が下落しはじめました。そんな折、Aさんの父親が亡くなります。
一次相続は、Aさんの母親の配偶者控除が使えたことと、相続人の数が多く基礎控除額が大きかったこと、そして、何より地価が下がるといってもまだまだ購入額より高く売れた時代だったことなどが功を奏し、なんとか切り抜けることができました。相続税は土地のいくつかを手放して現金に換えるだけで都合できたのです。
配偶者控除というのは、被相続人の配偶者(この場合はAさんの母親)が資産を受け継ぎやすいよう、法定相続分あるいは相続財産の1億6000万円までを非課税とする制度です。また、基礎控除額は5000万円+相続人1人あたり1000万円を相続財産から差し引けるという制度です(金額は当時)。
Aさん一族の場合は、5000万円+母親と兄弟5人の計6人で6000万円=1億1000万円を減額することができました。ちなみにこの基礎控除額は今回の大改正により、3000万円+相続人1人あたり600万円に圧縮されます。
さて問題は、Aさんの母親が亡くなり二次相続が発生した時に起こりました。今度は配偶者控除を使えないので、Aさん兄弟に億単位の相続税が課されました。しかし、Aさん兄弟は全員、普通のサラリーマンをしており、そんな多額の現金は手元にありません。そこで、みんな頭を抱えてしまったのです。
この話は次回に続きます。