全国各地で頻発している「相続にまつわる悲劇」
Aさんの事例は、私がかかわったり見聞きしたりした中で最もショッキングで忘れられない例の1つです。このケースを最初に知っていただいたのは、これと似たり寄ったりのトラブルが日本のあちこちで起こっているという事実があるということです。
こんな例もあります。母親名義の土地の3分の1に母の自宅と3分の2に娘婿名義の自宅が立っていた事例がありました。この場合、母親と同居するなどの対策をしないと、母親の死去に伴う相続の際、土地が更地評価になってしまいます。
家族関係のことなので対策するかどうかは当事者の判断になりますが、自宅の土地については要件を満たせば、「小規模宅地等の特例」という制度で80%も土地の評価を下げることができましたが、このケースでは残念なことにそれをしていませんでした。1億円の土地でも2000万円にできたのですから、もったいないことです。
あるいは、物納をするにあたって条件のよい土地を手放してしまい、最後には地代の供宅されている貸地や間口の狭さに再建築不可の土地のような劣悪な土地ばかりが残ってしまったという事例もよく聞きます。これは申告する税理士の「よい土地でないと税務署が受け取ってくれない」「売れない土地で申請すると拒否される」という思い込みが招いた悲劇です。
税理士が全員「相続の知識」を持っているわけではない
よい土地しか物納できないというのは完全な誤解です。実際、私は何十件も物納申請してきましたが、物納の要件が厳しくなった後でも、条件のよくない土地であったとしても要件さえ満たしていれば、税務署は問題なく申請を認めてくれています。
この間違った認識は一般の人々だけでなく、恥ずかしながら、税理士の間にも根深くはびこっています。私がつい先日、税理士仲間で物納の話をしていた時も、「条件の悪い土地は税務署が嫌う」と当然のように発言する人がいました。
「それは、先生が勝手にそう思い込んでいるだけで物納申請をしたことがない証拠になってしまいます。そういう発言は相続の申告の経験が少ないことを白状するようなものですよ」と、私はその場で指摘し、実際の案件を挙げて物納について説明しましたが、結局その税理士は、「今後大型の相続で物納が絡むような案件は田中先生と一緒に申告します」といっていました。
このように、1つひとつの資産の評価に気をとられているだけで、相続税の納税のことや相続人の個々の事情などを踏まえた相続全体のことをよく知らない税理士がいます。特に顧問税理士の方は、普段の仕事の性質上、詳しくないことが多いようです。
担当する税理士によっては、同じような悲劇があなた自身にも降りかかってくるもしれないのです。