前回に引き続き、株式の「公正価値」を求める具体的な手順を見ていきます。今回は、CAPMに基づく株式の期待収益率の計算手順を解説します。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

CAPMに基づく株式の期待収益率の計算手順とは?

前回の続きです。

 

CAPMに基づく株式の期待収益率の計算手順を説明しましょう。

 

計算には株価指数の期待収益率を使うのですが、その際、無リスク金利を差し引いて考えます。なぜならば、無リスク金利はリスクを取らずに稼ぐことができるはずなので、株価変動リスクの対価としての期待収益率を計算する上では、無リスク金利を控除して考える必要があるからです。式で表すと、以下のようになります。

 

期待収益率-無リスク金利=β×(株価指数の期待収益率-無リスク金利)

 

つまり、投資対象の株式が株価指数のβ倍動く(価格変動のリスクがβ倍)なら、β倍の収益率を期待するということです。左辺が期待収益率だけの方がわかりやすいでしょうから、無リスク金利の項を右辺に移動させてしまいましょう。すると、全く同じ意味の式ですが、次のようになります。

 

期待収益率=β×(株価指数の期待収益率-無リスク金利)+無リスク金利

 

例えば、βが1.5で、TOPIXの期待収益率が5%、無リスク金利が0.5%だったとしましょう。その場合の期待収益率は、

 

期待収益率=1.5×(5%-0.5%)+0.5%=7.25%

 

となります。

市場全体に連動する部分の動きの大きさ=「β」

ここからは余談になりますが、このβという概念は、ファイナンス理論において非常に重要な意味を持ちます。ファイナンス理論では、株などの価格の動きを、「市場全体に連動している部分」と、「その証券特有の理由で動いている部分」に分けて考えます。そして、「市場全体に連動している部分」の動きの大きさを表すのがβなのです。この考え方は、ファイナンス理論のいたるところで出てくるので、覚えておくといいでしょう。

 

例えば、株式市場では非常に多くの銘柄が取引されていますが、それぞれはてんでバラバラに動いているのではなく、ある程度市場に連動して動いています。なぜそうなるかは一言では言えませんが、多くの銘柄をひとまとまりとみなして取引を行う投資家が相当数いるから、と考えるとわかりやすいと思います。

 

例えば、日経平均連動型上場投資信託というものがあります。これは、日経平均株価のリターン(収益)と連動したリターンを上げることを目的とした投資信託です。日経平均株価は、日本を代表する225銘柄の株価を平均することで計算されています。そこで、投資信託のリターンを日経平均のリターンと連動させるためには、225銘柄を同じ金額(投資信託の残高×225分の1)ずつ保有すればよいということになります。投資信託の残高が225億円だとすると、225銘柄をそれぞれ1億円ずつ保有すればよいということです。そうすれば、投資信託と日経平均株価の動きが一致するわけです。


※実際の日経平均株価は、株式分割等の影響を考慮するための調整がなされているため、計算はもっと複雑になりますが、ここでは話を単純化しています。

 

投資家がこの投資信託を購入した場合、購入資金は他の購入者の資金と合算されて、日経平均株価を構成する225銘柄を新たに購入するのに使われます。つまり、225銘柄に一斉に買いが入るわけです。逆に、誰かがこの投資信託を売った場合は、225銘柄に一斉に売りが入ることになります。このような類の取引は、市場では頻繁に行われています。実際、私がメガバンク時代に所属していた株式運用デスクでは、日経平均連動型上場投資信託を何百億円という単位で日々売り買いしていました。

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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