株式の「公正価値」を求める具体的な手順③

前回に引き続き、株式の「公正価値」を求める具体的な手順を見ていきましょう。今回は「株価指数」について取り上げます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

極端な値動きが相対的に少ない「指数連動型投資信託」

日経平均に限らず、金融の世界では様々な株価指数が存在します。また、株式だけでなく、債券などの他の資産にも、市場全体の動きを示す指数が公表されています。日本では、株式の場合は日経平均株価やTOPIX、債券の場合はNOMURA-BPI(野村證券が公表している、日本の公募債市場全体の動きを表す指数)などが有名です。そして、そのような指数の騰落と連動した収益を上げるように設計された投資信託のことを、指数連動型投資信託といいます。

 

なぜ指数に連動させるかというと、個別の銘柄に比べて極端な値動きが少ないからです。株式も債券も同じことですが、一つ一つの銘柄は、その銘柄の財務状況の変化やニュースリリースなどによって、価格が大きく変動することがあります。一方、指数は多数の銘柄の平均的な動きを表しているため、一つ一つの銘柄の影響が薄められていて、極端な値動きが相対的に少ないと言えます。投資家にとって最も恐れるべきことの一つは、予期せぬ大きな損失を被ってしまうことです。個別銘柄への投資に比べて、指数に連動した投資はそのようなリスクが低いと言えるわけです。

 

実際に、指数連動型投資信託は、投資家からの資金を多くの銘柄に分散して投資します。そうすれば、個々の銘柄における騰落のインパクトが薄められるため、全体としての収益は安定します。このような効果を分散効果と呼び、分散効果を狙って多くの資産クラスや銘柄に投資することを分散投資といいます。

 

分散投資は、投資戦略における基本中の基本です。そして、指数連動型の投資手法は、分散投資を行う上で最もよく用いられるものです。このような背景から、金融の世界では、非常に多くの銘柄をひとまとまりと考えて、同時に売ったり買ったりすることが多いのです。そのため、異なる銘柄同士の動きが連動してくるわけです。

株価の動きには「その銘柄特有の理由」も影響

とはいうものの、全ての銘柄の動きが完全に同じになるということはあり得ません。それぞれの企業によって業績や成長性などが異なるので、完全に同じにならないのは当然のことです。そのため、株価の動きは「市場全体に連動している部分」だけでなく、「その銘柄特有の理由(個社の業績、成長性等々)で動いている部分」も存在します。

 

ここで、不思議に思われた方もいらっしゃるでしょう。βは、「市場全体に連動している部分」の動きの大きさを表すという話をしました。けれども、「その銘柄特有の理由で動いている部分」については、期待収益率の計算では考慮していません。一般に、投資のリスクが高いほど期待収益率も高いという話をしましたが、その文脈でいけば、「その銘柄特有の理由で動いている部分」も価格変動のリスクと言えるので、その分だけ期待収益率を上げるべきではないでしょうか? 

 

この点は非常に面白い部分なのですが、ファイナンス理論では、リスクが高い投資ほど期待収益率も高いというのが大原則ではありますが、リスクならば何でもいいというわけではありません。期待収益率向上に繫がるリスクと、そうでないリスクがあるのです。

 

市場に連動する動きに由来する価格変動リスクのことを「市場リスク」と呼びます。一方、その銘柄特有の理由に由来する価格変動リスクのことを「個別リスク」と呼びます。ファイナンス理論では、収益の源泉となりうるのは市場リスクのみであり、個別リスクは収益の源泉となりえないと考えます。この点については、本書の「ポートフォリオ理論」の章で詳しくお話しします。

 

βという概念は、資産運用の実務においても非常に重要です。私は、かつてヘッジファンドに勤めていましたが、その当時運用していたファンドの中に、βの大きさを市場環境に合わせて変動させるものがありました。

 

例えば、株式市場が下落トレンドに入ったときはβを小さくし、逆に上昇トレンドに入ったときはβを大きくします。ファンドのリターンは市場のβ倍と考えると、株式市場が上昇トレンドの時にβを大きくすれば、その分ファンドの利益が大きくなります。逆に、株式市場が下落トレンドの時にβを小さくすれば、損失を抑えることができるわけです。このように、βは運用戦略を構築する上でもキーとなる概念です。


※詳細は割愛しますが、先物契約というものを活用してβを変動させていました。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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