今回は、株式の「公正価値」を求める手順について見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

債券と異なり、配当キャッシュフローがずっと続く株式

前回の続きです。

 

次に、株式を考えましょう。まずはステップ1の将来キャッシュフローに置き換えるところからです。株式を持つことで得られるキャッシュフローは何かというと、配当です。配当はいつまで支払われるかというと、債券のように満期があるわけではないので、特に期限はありません。つまり、株式を保有している限り、ずっと支払われ続けると考えることができます。株式のキャッシュフローを図にすると、以下のようになります(話を簡単にするために、年初に投資開始して、配当は年1回、年末に支払われるとします)。

 

[図表1]株式のキャッシュフロー


例えば、配当が毎年50円ずつ支払われるとすると、次の表のようになります。

 

[図表2]株式の将来キャッシュフロー


このように、株式は、ずっと続く配当キャッシュフローの系列に置き換えて考えることができます。

株式のリスクは「価格変動の激しさ」で決まる

次にステップ2、期待収益率を考えましょう。債券のところで、リスクの高い資産ほど期待収益率が高くなるという話をしました。これは、債券だけでなく、株式を含めあらゆる資産に当てはまる話です。

 

株式の場合、リスクの高い低いは、価格変動の激しさで決まると考えることができます。価格が激しく変動する銘柄ほど、投資の成果がぶれやすいので、リスクが高いということです。価格変動の激しさは業種や銘柄によって大きく異なります。

 

例えば、食品・医薬品など景気にかかわらず安定した需要が見込める業種や、電力・ガス、鉄道などのインフラ系(いわゆるディフェンシブ銘柄)の業績は景気の影響を受けにくいため、株価の推移も安定していて、値動きはそんなに激しくはありません。一方、鉄鋼・化学などの素材産業や海運などの銘柄(いわゆるシクリカル銘柄)の業績は景気に大きく左右されるため、株価の値動きも大きい傾向があります。

 

このような、株式の値動きの激しさと期待収益率を結びつける理論として、CAPM(Capital Asset Pricing Model :資本資産価格モデル)と呼ばれるものがあります。CAPMでは、株価指数を基準にして、その何倍動くかで各銘柄のリスクを測ります。その倍率のことを市場ベータと呼び、ギリシャ文字を使ってβと表記します。

 

株価指数とは、株式市場全体の動きを表す指数で、日本ではTOPIX(東証株価指数)、米国ではS&P500指数などが知られています。TOPIXは、東京証券取引所が公表しており、東京証券取引所第一部上場銘柄を対象として計算されています。

 

また、S&P500指数は、スタンダード・アンド・プアーズ・ファイナンシャル・サービシズ・エルエルシーが公表している指数で、ニューヨーク証券取引所及びNASDAQに上場している株式から主要な500銘柄を選択し、指数を構成しています。これらの株価指数は株式市場の動きを非常によく表しているので、株式市場全体の動きを表すものとして計算に使うことができます。株価指数の日々の動きは経済ニュースなどで必ず取り上げられるので、ご存知の方も多いでしょう。

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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