付与された格付は「見直し・変更」されることがある
前回の続きです。
債券の投資家にとって、格付は非常に重要な意味を持ちます。なぜならば、格付の高い債券は、信用リスクが低い代わりに利回りも低い、一方、格付の低い債券は、信用リスクが高い代わりに利回りも高いというふうに、トレードオフの関係になっているからです。債券の投資家は、収益率と信用リスクのバランスを考えつつ、格付ごとの保有比率を慎重に判断する必要があります。大部分の金融機関は、債券への投資に関して、格付ごとに投資金額に上限枠を設定しています。
一般に、格付が低い(信用リスクが高い)発行体の債券ほど満期利回り(期待収益率)が高くなるので、値段は安くなります。しかし、市場では様々な種類の債券が取引され、価格が日々変動しているため、同じ格付の債券でも、割安なものや割高なものが出てきます。投資家は、社債の発行体の格付を参考にしつつ、「この銘柄はシングルAにしては割安だな」などと考えながら投資の可否を判断するわけです。
格付は、5年後、10年後といった将来にわたって支払能力が維持されるかという観点から付与されます。しかし、格付機関も神様ではないので、企業の未来を完全に予測できるなんてことはあり得ません。また、格付は、その格付が付与された時点までの公開情報に基づいて調査され、付与されたものです。その後に新たな情報(市況の変化、新製品の売れ行き不調、自然災害による損害など)がリリースされた場合は、判断が変わることはあり得ます。
そのため、格付は一度付与されたらずっと固定というわけではなく、適宜見直され、変更されることがあります。格付が良い方向へ見直されることを格上げ、悪い方向へ見直されることを格下げと言います。
基本的に格付に反映される「信用リスク」
債券の投資家にとってあまり起きて欲しくないことの一つは、保有している社債が投資適格(BBB以上)から非投資適格(BB以下)へ格下げされることです。多くの金融機関では、その債券が投資適格か非投資適格かで扱いが大きく異なります。信用リスクを抱えすぎないようにするため、非投資適格債は投資適格債に比べて、投資上限枠が小さめに設定されているのが一般的です。ですから、ある投資適格債が格下げされて非投資適格債になってしまった場合、その投資額によっては、非投資適格債の投資上限枠を超過してしまう可能性もあります。
例えば、非投資適格債の投資上限枠が100億円で、すでに70億円の枠を使っていた場合、投資額が50億円の投資適格債が非投資適格債へ格下げされてしまうと、会社全体として120億円(70億円+50億円)の非投資適格債を持っていることになり、100億円の投資上限枠を超過してしまいます。
そのような場合、たとえ売却価格が魅力的でなくても、ルールを守るために社債を売らなければならないといったことが生じます。私自身も、現場でそういった事例を何度も見てきました。
また、似た事例ですが、ある投資適格社債への投資を計画していたところ、直前になって格下げが発表され、非投資適格へ落ちてしまったケースもありました。当然、その社債への投資は見送りとなりました。格付変更自体はめずらしくもないのですが、その中でも、BBB格からBB格への格下げ(つまり投資適格から非投資適格への格下げ)は、実務上は特に注意する必要があるということです。
このように、社債の利回りは信用リスクによって変わり、信用リスクの高さは基本的には格付に反映されているということです。もちろん、格付を盲目的に信じるのは危険です。例えば、2008年に6000億ドル以上の損失を抱えて倒産したリーマン・ブラザーズは、破綻直前まで、Standard & Poor’sやMoody’sなどの主要な格付機関から投資適格の格付を与えられていました。このように、格付は、あくまで投資判断材料の一つという位置付けであるべきです。発行体の信用力は、企業のディスクロージャー資料や業界動向などをもとに、投資家自身で調査することが大切になってきます。