債券の「公正価値」を求める具体的な手順②

今回は、債券の満期利回り、信用リスクを求める方法を見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

信用リスクが高い債券ほど、満期利回りは高い

前回の続きです。

 

ここで、満期利回り(YTM)はどうやって決まっているのかを説明しておきましょう。先ほど7%としたのは、例題のために適当に設定した数字に過ぎず、実際の満期利回りは、債券ごとに様々な値をとります。満期利回りは様々な要因が絡み合って決まっているのですが、一番大きな要因は、発行体の信用力です。

 

債券は“借金”の一種である以上、踏み倒される可能性が常に付きまといます。発行体の財務状況が悪化したり、破綻するなどして元本の満額での償還が難しくなり、金額を減らされるということは実際よくある話です。このような、取引相手が支払うはずだったお金を支払ってくれないリスクのことを信用リスクといいます。相手を“信用”してお金を貸したのに、その“信用”が裏切られるリスクということです。

 

例えば、トヨタなどの財務状況の良い大企業が発行する債券は、信用リスクが低い(踏み倒される可能性が低い)と言える一方、財務状況が悪い企業が発行する債券は信用リスクが高い(踏み倒される可能性が高い)と言えます。信用リスクが高い債券を購入する投資家は、高いリスクの見返りとして高い収益率を期待します。これは当然のことで、同じくらいの期待収益率ならば、誰だって信用リスクが低い債券を買うわけです。そのため、信用リスクが高い債券ほど、高い期待収益率を要求されます。リスクが高い投資ほど高い期待収益率を要求されるという原則が、ここでも適用されるわけです。

 

つまり、信用リスクが高い債券ほど満期利回りが高くなります。満期利回りが高くなれば、その分ディスカウントファクターが小さくなるので、将来キャッシュフローの割引現在価値が小さくなります。ということは、その合計値である公正価値も小さくなります。つまり、踏み倒される可能性が高い債券ほど、価値も低くなるということです。

信用リスクを判断する「格付」とは?

債券には、大きく分けて国債と社債があります。国債とは、アメリカ合衆国や日本国などの国家が発行する債券のことです。社債は、トヨタやマイクロソフトなどの企業が発行する債券のことを言います。

 

アメリカや日本などの主要先進国が発行している国債は、基本的には信用リスクは無いと考えます。歴史的には国家が破綻した事例はいくつもあるのですが、企業が倒産するリスクに比べると、主要先進国が財政破綻して国債が紙くずになるリスクは極めて低いので、実務上は信用リスクなしとみなす場合が多いです。

 

主要先進国の国債の利回りを、リスクなしで稼ぐことができる利回りという意味で無リスク金利と呼びます。あらゆる資産は、無リスク金利よりも高い期待収益率を要求されます。なぜならば、投資には損失のリスクが付きまとうので、期待収益率が無リスク金利と同水準かそれより低ければ、その資産に投資せず、世界で最も安全な資産である主要先進国の国債に投資した方が良いからです。つまり、無リスク金利は、あらゆる資産の期待収益率の下限と考えることができます。

 

社債など、主要先進国の国債以外の債券については、信用リスクを考慮する必要があります。具体的には、信用リスクが高いほど満期利回りが高くなります。信用リスクが高いか低いかを判断する際に最もよく使われる目安が、発行体の格付です。ムーディーズ(Moody’s)、スタンダード・アンド・プアーズ(Standard & Poor’s)、フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)、R&Iなどの格付機関が、発行体ごとに財務状況を調査し、格付を付与しています。

 

例えば、最も信用リスクが低い発行体はAAA(トリプルエー)という格付が付与されます。そして、信用リスクが高くなるにつれて、AA(ダブルエー)、A(シングルエー)、BBB(トリプルビー)、BB(ダブルビー)、B(シングルビー)、CCC(トリプルシー)…というようになります。

 

格付がBBB以上の債券は、信用リスクが低く、多くの投資家にとって望ましい投資対象と言えるため、「投資適格債」と呼ばれています。一方、格付がBB以下の債券は「非投資適格債」と呼ばれます。あるいは、損失のリスクが高い代わりに高い利回りを期待できるので、「ハイイールド債」と呼ばれています(英語で「高い利回り」を表すHigh Yieldという言葉から来ています)。

 

投資適格債は、信用リスクが低い代わりにハイイールド債ほどの利回りは期待できない。逆にハイイールド債は、利回りが高い代わりに信用リスクも高い、というふうに一長一短なので、投資家は両者のバランスを考えながら投資を行います。

外資系生命保険会社の運用担当 

1982年福岡生まれ。外資系生命保険会社の運用部門に勤務。京都大学理学部・東京大学大学院理学系研究科卒(素粒子物理学専攻)。
大学院時代は世界最大の素粒子実験プロジェクトの研究員として活躍。その後メガバンクにクオンツ(金融工学を駆使する専門職)として採用され、信用デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当し、ニューヨークでヘッジファンドのマネージャーを経験。2016年に転職し、現職では10兆円を超える資産の運用に携わる。
欧米文化に親しんだ国際的な金融マンであると同時に、科学や哲学における最先端の動向にも精通している。著書に『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ刊)がある。

著者紹介

連載資産運用の基礎知識――投資対象の価値を見極める「プライシング理論」

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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