前回は、「小規模宅地等の特例」が適用される相続人の条件を取り上げました。今回は、マイナンバー制度で相続税の「税務調査」はどう変わるのか見ていきます。

マイナンバー制度の目的の一つは「税務調査の円滑化」

2016年の1月から施行されたマイナンバー制度。国民総背番号制ともいわれ、非常に大きな話題となりましたが、マイナンバー制度が施行されたことで、具体的にどのような影響が生じるのでしょうか。

 

マイナンバー(個人番号)とは、国民一人一人に与えられた12桁の番号のことです。「社会保障」「税」「災害対策」の3つの分野で活用されています。マイナンバー制度の導入には、次の3つの目的があります。

 

1 行政の効率化

2 国民の利便性の向上

3 公平・公正な社会の実現

 

「税」の分野では、主に1「行政の効率化」や3「公平・公正な社会の実現」の目的でマナンバーが活用されています。具体的には、1「行政の効率化」は、税務調査などの業務の円滑化を、3「公平・公正な社会の実現」は、脱税や不正の防止のことを指すとされています。

 

すでに、2016年の施行以降、税務署に提出する申告書等の書類にはマイナンバーの記載が義務づけられています。申告書への番号の記入自体は簡単に済みますが、税務署の窓口での本人確認が少し煩雑になったので、面倒に感じた相続人もいるかもしれません。

預金口座への付番は、2021年に義務化される!?

また、2015年9月に成立・交付された改正マイナンバー法により、「預金口座」および「医療」の分野でもマイナンバーが活用されることが決定しました。この改正で特に留意すべきは「預金口座」への付番(マイナンバーが付与されること)です。預金口座へのマイナンバー付番には、税務調査のさらなる円滑化、および脱税や不正の防止を狙う税務署の意図が見えます。

 

預金口座への付番は2018年から始まり、当面の間は任意ですが、2021年には義務化されるといわれています。

 

預金口座にマイナンバーが付番されると、納税者にはどのような影響があるのでしょうか。おそらく、税務調査上での情報収集が大幅に簡略化されるため、調査の件数が増えるでしょう。

 

相続税の税務調査にあたって、調査官が被相続人の預金の取引明細をチェックしていることはすでに説明しました。しかし実は、取引明細のひもづけ作業には非常に手間がかかるのです。調査官はまずはじめに、被相続人の申告書に記載されている銀行の支店に行き、とりあえずは当該の取引明細のみを金融機関に照会します。その後、実地調査でのヒアリングなどを通じて他の預金口座の存在が明るみに出れば、その都度照会していきます。

 

一応システム上では、同一の金融機関であれば、支店の1つに照会して、日本全国すべての本支店にある口座をひもづけてもらうこと(「名寄せ」といいます)も可能ではあります。しかし実際には、この名寄せの作業には非常に手間がかかるので、銀行側から敬遠されているのだそうです。いくら国の組織である税務署とはいえ、銀行への強制力はありませんし、そもそもひもづけの作業自体も予約制のことが多いようで、気軽にできるものではないらしいのです。

 

また名寄せは、金融機関のデータベースに「名前・住所・生年月日」を照会して行うのですが、結婚で苗字が変わっていたり、引っ越したのに「氏名変更届」や「住所変更届」を出していなかったりする場合にはヒットしません。また、銀行の担当者が漢字の入力を間違っていた場合(斉藤・斎藤・齋藤の混同など)にも、名寄せが困難になります。

 

税務署としてはおそらく、すべての口座を一気にひもづけできれば手間も省けて万々歳なのでしょうが、いかんせん金融機関との関係にも気を使わなければいけないので、どうしても効率の悪い方法をとらざるを得ないようです。

本連載は、2017年12月刊行の書籍『相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

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