白内障の進行の仕方には個人差がある
Q:白内障になると誰でも見え方が悪くなるのでしょうか?
Q:見え方が悪くなった人だけが白内障の可能性があるのでしょうか?
Q:自分はよく見えていると思っている人は絶対に白内障ではないのでしょうか?
A:答えはすべて「NO」です。
確かに白内障が進行すれば見え方が悪くなることが大半です。そして白内障が進行するにしたがって見え方が悪くなります。
しかし気をつけなければいけないのは、見え方には個人差があり、白内障がだいぶ進行しても、自覚症状のない例もたくさんあるということです。つまり必ずしもすべての人が白内障の進行に比例して見づらくなるとは言えません。
進行した白内障では、水晶体が硬くなるだけではなく濁りも増してくることがほとんどですが、中には、あまり濁らないパターンや逆に濁りが強い割にあまり硬くならないというパターンもあります。白内障の進行の仕方には個人差があるのです。
このうち気をつけたいのは、硬さが増す一方、濁りはそれほどでもないパターンです。この場合、あまり視力が落ちないことが多く、自覚症状がほとんどないため、気づいたときにはかなり進行していることも珍しくありません。
片目だけが白内障になると「自覚症状」がない場合も
もう一つ、白内障に気づきにくく対処が遅れがちなケースに、片方の目だけが進行してしまうことが挙げられます。
白内障の多くは加齢が要因であることを考えると、片方だけというのは奇妙な感じを受けるかもしれませんが、実際には左右で進み具合に差のあるケースも少なくありません。白内障の進行の仕方は人によってまちまちです。加齢によって進行する白内障であっても、左右の目で進行の度合いに大きな差があることもあるのです。
ところが片方の目だけが見えにくくなっていたとしても、もう片方の視力があまり低下していない場合には、自覚症状がないことがあります。信じられないかもしれませんが、片方の目が日常生活に支障をきたすほど視力が低下しても本人がまったく気づかないことすらあるのです。我々眼科医は、日常の診療でたくさんの人を診察しているので、このような患者さんを何人も経験します。
このようなことはなぜ起こるのでしょうか?
私たちは目で得た光の信号を情報として脳に送ります。我々の目は2つあるので、2つの目からそれぞれ送られてくる視覚情報を脳で統合し、まとめて一つの視覚情報として認識します。
片方の目が見えにくい場合や左右の目の視覚情報が統合できない場合は、見えている目の情報だけを優先して処理します。場合によってはあまり見えていないほうの目の情報を意図的に無視してしまいます。そのような場合でも、本人は両目の視覚情報を統合していないという自覚はありません。
その結果、片方の目からの情報が少ない、つまり見えていないことはあまり問題にならずに、脳の中で一つの像として認識されるのです。よって片方の目が見えなくても違和感なく日常生活ができるような機能とも言えます。
しかしそれがデメリットになることがあります。つまり片方の目の白内障が進行しても見えにくさを感じないために、なかなか病気に気づかないのです。
白内障は少しずつ進行する病気です。急に失明してしまうのと違い、見え方の変化は時間をかけてゆっくりと進行します。そして人間には環境に適応する能力があります。その能力は生活上非常に重要なのですが、片目が見にくくなった場合にも見にくい環境に慣れてしまうことから、「片目が見えなくなってもまったく気づかない」ということが起こるのです。
このように、片方の目だけ白内障が進行している場合、自覚症状がなかなかあらわれないので、気づいたときにはかなりの重症になっていることが少なくありません。結膜炎などの他の病気で受診してきたところ、進行した白内障が見つかったというケースがあります。本人はそれまで自分が白内障―それも重症の白内障であることに気づかないこともあるのです。
ここでは片方の目だけ進行した例を挙げましたが、自然な加齢により両方の目が白内障になっている場合も、その進行はたいへん緩やかです。何年もかけて少しずつまぶしさが増してきたり、見え方が悪くなっていきます。明らかに見づらいと感じたときには、進行してしまっている可能性があります。
なお、これは白内障だけでなく、糖尿病網膜症、緑内障、加齢黄斑変性など、視力が低下する他の眼疾患にもあてはまります。