前回は、「結婚・子育て資金の非課税制度」が相続税対策に使えない理由を紹介しました。今回は、借地権や収益物件の賃貸割合など、不動産の相続時に「税務調査」の対象になりやすいポイントを紹介します。

登記簿や固定資産税の通知がない「借地権」に注意

不動産自体については、申告漏れがあまり発生しない財産であるといえます。通常、土地などの不動産は登記されており、固定資産税も毎年納税しているはずなので、財産として全く認識していなかったということはめったにないからです。

 

ただ、気をつけなければいけないのが「借地権(第三者から借りた土地に自分の建物を建てられる権利)」です。

 

税法上の「借地権」は、ほとんどが有償での賃貸に限ります。無償で貸し借りするような場合には、「使用貸借」となり、借りる側の権利が著しく弱まるからです。たとえば、子供が親の所有する土地を無償で借りて、そこに家を建てるような場合が「使用貸借」にあたります。

 

相続税の申告時には、この「借地権」も通常の土地と同様に財産として申告が必要なのですが、この借地権は申告漏れがたまにあるので注意が必要です。というのも、自身で土地を所有している場合と違って登記簿や固定資産税の通知がなく、公的な書類で確認するのが難しいからです。

 

ですので、可能であれば土地の登記簿謄本や賃貸借契約書を確認しましょう。所有する土地の数と建物の数が一致していなかったり、土地と建物の地番が違う場合には、借地に建てている可能性があります。

 

口約束だけで借りているような場合には、念のためあらためて書面に起こしたほうがよいでしょう。

不動産鑑定の評価額による申告も、税務調査のリスクに

騒音が著しいと判断された場合、10%の評価減となります。しかし、「何ヘルツ以上、何デシベル以上を騒音とみなす」というようなしっかりとした定義がなくあいまいなので、税務調査で論点になることが多いです。

 

土地評価においては、国税庁が毎年発表している路線価を使って評価するのが一般的です。そのため、わざわざ不動産鑑定による評価額で申告をすると指摘されることが多いです。

 

賃貸アパート経営もよく知られた節税対策のひとつですが、アパートを持っている場合、「本当にすべての部屋が埋まっていたのですか?」と指摘されることが多々あります。「賃貸割合」の問題です。

 

そもそもなぜ賃貸アパート経営が相続税対策になるのでしょうか。それは、賃貸アパートの場合、土地と建物それぞれの相続税評価額が減額されるからです。減額の程度は「賃貸割合」で変動します。

 

賃貸割合というのは、賃貸に供されている部屋の割合のことで、満室の場合を100%とします。賃貸割合100%(空室率0%)であれば、土地は平均約2割程度減額されます。建物は3割程度減額されます。逆に賃貸割合0%(空室率100%)の場合、減額はゼロです。全室が空室、という極端なケースはあまりないかもしれませんが、なかなか部屋が埋まらず半分しか借り手がつかなければ、減額効果も半分になってしまいます。

 

ただ、相続時に空室であっても、その空室が一時的なものだと認められれば、その部屋は空室とみなさない(つまり賃貸しているものとして取り扱う)、という通達が存在します。もちろん相続人としては、空室とみなされると評価額が跳ね上がるので、「一時的な空室です」と主張します。一方の調査官は、所得税の確定申告書と突き合わせて、「長いこと家賃収入がありませんね。一時的な空室とはいえませんね」と指摘してきます。

 

一般的には、空室の期間が6カ月を超えてくると、一時的な空室と主張することが難しくなってきます。

 

アパートの敷地など、貸家建付地の場合、自用地(所有者自らが住んでいるような土地)よりも相続税上の評価額が減額されることはすでに説明しました。しかしたとえば、そのアパートに駐車場がついているような場合、駐車場に空きがあるからと外部の人に貸してしまうと、駐車場は貸家建付地ではなくなり、自用地として評価されてしまいます。自用地として評価されてしまうと、当然減額は受けられません。

 

ときどき、それと知らずに貸しだしてしまっている人がいますが、うっかり1台でも外部の人に貸しだしていると、減額を受けられなくなるので気をつけましょう。調査でも指摘されることがあるので注意です。

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

相続税専門税理士が教える 相続税の税務調査完全対応マニュアル

岡野 雄志

幻冬舎メディアコンサルティング

ある日国税庁からかかってきた一本の電話。 その電話だけで、何百万円と課税をされてしまう可能性があること、あなたは知っていますか? 「マルサの女」という言葉が流行ってから、国税庁の担当者が税金の調査をしにくるこ…

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