孫が事業を承継・・・家長である長男とのトラブルを解決した事例

今回は、法定相続人以外の孫が事業を承継したケースで、家長である長男との間で起こったトラブルの解決事例を見ていきます。※本連載では、相続診断協会の編書、『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から一部を抜粋し、「争族」を避け、「笑顔相続」を実現させるポイントを解説していきます。

事業を継いだ孫と長男との間で、財産をめぐる争いが…

<家系図>

 

<主な財産状況>

●土地(2筆、320㎡)                     約6,500万円

●建物(1筆、事業用・自宅・賃貸) 約2,000万円

●預貯金               約500万円

●その他               約1,000万円

   合計              約1億円

 

事業を営む家の相続では、さまざまな事情から、事業承継者が孫や第三者など「法定相続人以外」に決まる場合があり、その多くが社長や代表などの権限だけでなく、財産も法定相続人以外の人に承継されることになります。

 

この事案は、実際に被相続人の孫が事業承継したケースです。

 

父親Aは事業を営んでいましたが、法定相続人が誰も承継しなかったため、孫の誰かが事業を承継してくれることを望みながら、しばらく他の人に運営を任せていました。それが亡くなる7年前に、急遽、44歳になる孫Gが「転職を考えていたが、事業を承継したい」と申し出てきました。

 

被相続人は大変喜び、すぐに近所の行政書士に相談して、事業用財産である土地建物を孫Gに遺贈する公正証書遺言をしたためて、これを銀行の遺言信託に預けました。法定相続人であるB~Fもとりあえず同意し、こうしてAも周囲もすべて円満に収まったと安心していました。

 

それから7年が経ち、92歳になる父親Aは徐々に身体も衰えてきて、入退院を繰り返すようになってきました。そんな中で、法定相続人たちが集まって遺言の中身を再確認したところ、長男Fが「自らの相続分が記載されていない。日頃から父親Aに『お前には建物の管理を任せる』と言われてきた内容と違う」と、遺言の内容に異を唱え始めました。しかし、孫Gとしては遺言のとおりの財産を受け取る前提で、一大決心でAの事業を引き継いだわけですから、長男Fの主張を受け入れるわけにはいきません。それから数か月間、長男Fと孫G(とその親族)は、激しく言い争いを続けました。

 

長男の「家長」としての立場・面子に配慮

そんな中で相続人B、Cから、相続税の計算とともに、長男Fと孫Gの仲裁をしてほしいと、筆者に依頼がありました。さっそく相続人や孫Gと話をして現状を整理したところ、次のような状況にあることがわかりました。

 

<長男Fの主張>

Aから常々建物を管理するように言われていた。そうである以上、相続の後は事業や他の店舗から生ずる家賃も受け取れる立場になるはず。

 

<孫Gの主張>

遺言には(だいたい)Gに遺贈すると書いてあるし、長男Fに建物を所有させたら、その建物の中で事業をする自分はFに家賃を支払わなければならなくなる。

 

<他の相続人B~E>

自分たちは何もいらないし、孫Gの言い分はわかるが、長男FにはA家の唯一の男子として気持ちよく、今後もA家を切り盛りしてほしい。

 

<遺言に書かれていた「付言事項」>

「・・・事業は孫Gにしっかり守ってもらい、一家については長男Fを中心にみんなで仲良くやっていってほしい。」

 

事業承継の道理から見れば、事業を引き継ぐ孫Gが事業用財産を引き継ぐのが自然です。しかし、相続人たちは「長男Fを中心にみんなで仲良く」というムードが支配的であることがわかりました。こうして、さらに数回の議論を経て、「長男Fに相続が発生した場合には、建物を確実に孫Gに遺贈する」ことを条件として、長男Fに建物の持分を相続する方向になりました。

 

ただ、受贈者に法定相続人ではない孫が含まれている相続なので、遺産の分け方を変えるには「遺言の撤回と書き直し」が必要でした。幸い、父親Aはまだ意思能力はあったので、Aに確認したところ、相続人たちが望む方向で遺言を書き直すことに同意。まず、公証人を呼んで銀行保管の遺言を撤回してもらいました。新しい遺言については、病院の中ですべてを口述して作成するのは難しい状況であったため、孫Gの受贈分について「死因
贈与契約書」を締結することで遺言の代わりとしました。

 

こうしてすべてが整った2か月後に、父親Aは亡くなりました。

 

相続税は発生しましたが、それほど高額にはなりませんでした。それよりも、法定相続人以外への贈与(遺贈)については不動産取得税や登録免許税が高額となるため、その負担をめぐって、相続発生後に一悶着ありました。結局、そうした経済的負担について、長男Fができる限り孫Gに負担をかけないことを約束することで、落ち着きました。

 

この相続では、財産の分割方法もさることながら、最も大切なのは長男Fの家長としての立場、面子(メンツ)という部分でした。現在、長男Fは建物を所有して家賃を得ていますが、その得た収益は甥や姪に小遣いとしてあげたり、Gの事業を経済的に支援するために使っています。Gとしては納得のいかない部分がありましたし、経済的に一見不合理な部分もありましたが、そうしてFが気持ちよく家長をしていることで、何も得なかった他の法定相続人たちも「『みんな仲良く』という父親Aの意に沿えた」と納得し、笑顔相続をむかえられました。

笑顔相続の秘密

本件は、被相続人の孫(相続人ではない)が被相続人の事業を承継する中で、遺言書、生前の家族会議、死因贈与等を経て、相続診断士である税理士が他の相続人間の感情を調えた事案です。法定相続人以外の人に財産を譲るためには、遺言書や死因贈与契約が必要ですが、通常の相続より各種税金が高くなる、遺留分へのケアなど、想定しなければならないことがいろいろあります。

 

相続や事業は紛れもなくお金の問題ですが、合理的な回答が心穏やかさをもたらすとは限りません。本質的には「みんなの顔が立つように」落ち着けるということが笑顔相続にはとても大切なことであり、その理由がわかる事例です。

 

岸野 康之(きしの・やすゆき)

相続診断士、税理士

昭和50年2月3日、東京都生まれ。商学部卒(経済学史専攻)。

一般事業会社勤務の後、医療専門会計事務所に10年勤めて平成26年に独立。現在、㈱日本財務経営代表、税理士岸野康之事務所所長。

医療機関、スポーツ事業、相続・事業承継に特化しており、特に全国で「他の税理士が取り扱えない」特殊な病院経営・医療機関設立、相続等のコンサルティングを展開。案件数を限定して、深く関与するスタイルで活動している。

一般社団法人 相続診断協会 

日本から「争族」をなくし、「笑顔相続」を広めることが「相続診断士」のミッションです。笑顔相続を広めるためには、生前に想いを残し伝えることが大切であると考え、その有効な方法としてエンディングノートの作成を推奨しています。
相続診断士の役割は、相談者に寄り添い、想いを聞き、問題点を明確にすることです。節税対策や遺産分割対策・遺言書の作成などは、税理士・弁護士・司法書士・行政書士などの士業と連携をして、最適なソリューションを提供します。
相続診断協会は、相続診断士とともに「想いを残す文化を創ります」。

写真は、代表理事の小川実氏。

著者紹介

連載エピソードに学ぶ「争族」を回避して「笑顔相続」を実現させるポイント

本連載は、2017年12月5日刊行の書籍『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

編者:一般社団法人 相続診断協会

日本法令

相続とそれに伴う遺産分割や事業承継の場面で起こってしまう家族間の争い…本書ではそんな「争族」を避け、「笑顔相続」を実現させるための知識をご紹介。 遺言、生前贈与、信託、養子縁組、事業承継対策、相続税節税対策など…

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