前回は、個人事業主が把握しておきたい「所得税」の基礎知識を取り上げました。今回は、「行き過ぎた節税」が招く意外なリスクについて見ていきます。

個人事業主は自助努力で税金の減額が可能だが・・・

まずは、所得税はどうやって計算するのか見ていきましょう。大きくは次のような4ステップになります。

 

ステップ1 収入(売上)を出す

ステップ2 必要経費を引いて、所得金額を計算する

ステップ3 所得から差し引くことができる金額(所得控除)を出し、課税所得を算出

ステップ4 税率をかけ、納付税額を出す

 

これを計算式にすると、

 

●収入(売上) -経費=所得

●所得-各種控除=課税所得

●課税所得×所得税率=納付税額

 

の3つ。改めて見ると、意外にシンプルだと思いませんか。

 

そして、頭に叩き込むべきは、適切かつ賢く納税額を減らすには、必要経費や控除額をいかに漏れなく差し引くかがポイントということ。これが、サラリーマン時代との大きな違い。つまり、自助努力で税金を減らすことも可能ということです。

所得を低く見積もると、万一のときの補償が不十分に!?

「では、できるだけ経費を入れて、所得を減らせばOKということ?」

 

もちろん、適切かつ賢く節税をするのは結構なことですが、あくまでも”適切”ということが重要です。脱税に重いペナルティが待っているのはもちろん、”行き過ぎた節税”は、トクになるどころか、結果的に大きな損失を招きかねないのです。

 

たとえば、あなたが交通事故に遭って、入院しなければならなくなったとします。当然、その間、仕事はできません。傷病手当ももらえない個人事業主にとっては死活問題ですが、相手に完全過失があるならば、相手側の自動車保険で休業補償の請求が可能です。

 

「お金がもらえるなら、せっかくだからたまには休もう!」

 

となれば理想的ですが、注意したいのは、その支給額の基準となるのが、前年の所得ということです。つまり、”節税ありき”で、あまりに所得を低く見積もっていると、こうした万一の補償も十分に得られないリスクがつきまとうのです。

 

また、事業年度末の12月になって、

 

「予想以上に利益が多く出て、税金の負担が重くなりそう・・・」

 

といった際に、「少額減価償却資産(30万円未満)の一括償却」を活用する手があります。詳しくは後に解説しますが、減価償却といって、通常、10万円以上のパソコン、家電などの備品については、その耐用年数に応じ、一定額ずつ経費化していくことになります。

 

しかし、個人事業主や中小企業が青色申告を選択した場合、特典として、「少額減価償却資産(30万円未満)の一括償却」が可能となります。つまり、30万円未満の備品であれば、一括で経費にできる(年度内の合計額300万円まで)。年末になってからでも、節税対策を打つことができるというわけです。

 

とはいえ、”節税”という響きだけにつられるべからず。

 

「いずれパソコンを新調しようと思っていたから、この際、買い換えよう」

 

ということならいいと思います。

 

しかし、”節税ありき”でいらないモノを買うのは本末転倒。ムダなモノを買い、事業の運転資金を減らすことのほうが問題です。

 

加えて、ローンを組んだりする際にも、「所得をしっかりと得て、納税しているか」が問われます。後ろ盾のない個人事業主にとって、所得はいわば信用力の証でもあるわけです。

 

税金というと、「なるべく払いたくない」と考える人が多いようですが、”節税ありき”はリスク大。”良薬”も過ぎれば”劇薬”になりかねないのと同様、行き過ぎた節税は、事業にもマイナスに働きかねないのです。

本連載は、2017年2月24日刊行の書籍『どんどん貯まる個人事業主のカンタンお金管理』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の法律、税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

どんどん貯まる個人事業主のカンタンお金管理

どんどん貯まる個人事業主のカンタンお金管理

櫻井 成行

幻冬舎メディアコンサルティング

個人事業主にとって、日々のお金の管理や確定申告は、頭を悩ませることのひとつです。忙しい仕事の合間を縫って、毎年〆切ギリギリに何とか税理士に資料を提出する、という人も少なくないでしょう。数字や計算が苦手な人は特に…

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