「人材」=自分の能力を伸び伸びと発揮する、人財の種
前回の続きである。さらに中小企業の経営者から見ると社員は「人財」と「人罪」のほかに「人材」と「人在」の4つに分けられると私は考えている。
「人材」とは、文字通り会社の材料となる中心社員だ。数としてはもっとも多く、日々の会社の業務を支えてくれる存在だが、会社にとっては取り替えのきく存在でもある。こうした社員は30歳までに「人財」教育が必要不可欠である。
そして自分が会社に食べさせてもらっているのではなく、自分の力が会社を支えているという気持ちをもってもらうこと(自力本願)が大切だ。そうすれば本人も自信を持ってリーダーとなり、よき指導者になっていく。企業のトップとして経営を担っていく「人財」とは異なる意味で、自信と安心が根底にあり常にプラス志向で働き、どんな事柄でも伸び伸びと自分の能力を発揮することができる「人財の種」が人材ともいえる。
もっとも避けたいのは40歳、50歳になった社員が「この会社にしがみついているしかない」という状況に陥ることだ。中小企業は大企業並の給料を払う体力はないから、40代、50代になっても一般の社員には30代のころと同じ給料しか払えない。それが不満のタネになり他力本願に走る社員を私は多く見てきた。
繰り返しになるが社員に30歳で仕事を含めた自分の人生観を改めて考える機会を与えられるような会社は伸びる。
「人在」=社内を和ませ、人間関係を潤滑にする
4つの分類のうち最後の「人在」について。
中小企業は「人財」を尊重すべしと書いたが、昔の巨人軍ではないが、いくら中小企業といえども、全員が優秀でなんでもできる「人財」─野球でいえばサードで4番バッターばかりでは窮屈だ。
「仕事は言われたことをやり、それ以上でも以下でもない。反面、社内が和み人間関係を潤滑にする」。そんな存在も必要だ。そうした社員を私は「人在」と呼んでいる。
たとえば私が顧問をしているある自動車の整備工場が最近ベトナムから26歳の男性を研修生として採用した。高卒だがコツコツとベトナムで腕を磨き、日本の企業でさらに専門知識を身につけたいとやってきたのだ。
だから現場の工場では、片言の日本語ながら、みるみるうちに実力を発揮して日本人社員からの評価も高い。ただ専門の自動車整備以外のことになると、当たり前だが何もわからないに等しい。そこで全社員が協力して「トイレ」「エアコン」「照明」などのベトナム語の表記を社内に貼った。昼飯は必ずだれかが誘うし、休日は三河湾名物のアサリ採りに、夜はサッカーに誘うなど、みなが彼を気にかけている。
こういう社員の気持ちは、会社全体を柔らかい雰囲気にする。ベトナム人の彼がけっして劣っているわけではないが、日常生活の部分ではわからないことが多く、みながサポートしてやらないといけない。ベトナム人の彼の方も心から社員たちに感謝している。そうした行為や、そういう気持ちがみなの気分を和ませ、また気持ちをひとつにしていくようだ。
一生懸命だが不器用であったり足りないところがある、いい意味での劣等感をもった社員といえるかもしれない。ちょっとハンディがあって本人は一生懸命なのだが、みなが気にかけて、優しく見守ってやりたくなるような存在、それが「人在」だ。
[図表]社員には4つのレベルがある