「若手の提案」をどのように受け止めているか確認
前回の続きである。
若手の社員から仕事の改革・改善の提案があったときも同じだ。10年も同じ会社で働いていれば、客からのクレームだけでなく、仕事の進め方をめぐってもいろいろな問題が起こり、それに対してさまざまな議論が行われるのを目の当たりにしてきた。その中で多くの社員が熱心に改革・改善を提案し、結局は経営者に受け入れられずに終わった現場を見てもいるだろう。自分で真剣に考え、最善と思った提案が、あっけなく却下された経験があるかもしれない。
だから経験の少ない若手からの提案を見れば、その提案の問題点もわかるし、それが経営者側に受け入れられるかどうかも想像がつくのだ。
こうした場面で「10年選手」が問題を前向きにとらえられるかどうか、経営者はきっちりと評価しておかないといけない。
客からのクレームの件でいえば「よくあること」と表面的な処理に終わるのではなく、若手も巻き込んでそのクレームが起きた根本原因をさぐっていく。そうした判断力と行動力があるなら問題はない。即、改革、改善を決断、実行に移すことができるからだ。
また若手から提案があった場合も、「こういうのは前にもあった」と突き放すのではなく、過去にあった提案を具体的に示し、なぜそれが実現しなかったのかを説明したうえで、いまその提案を実現するためにはどこを変える必要があるのか、若手とともに考えられるようであってほしい。
しかし中小企業の経営者が見て合格点を付けられるような「10年選手」は、ほとんどいない。もしいれば、その経営者はラッキーであり、幹部社員から役員そして将来は後継者と考えていいだろう。こうした社員は人材ではなく会社の財産という意味で「人財」と呼ぶべきだろう。
マイナス発想の10年社員が、派閥を作って会社を潰す!?
ほとんどの社員は10年たつとラクをすることを覚え、社内でズルくズルく立ち回るようになる。そして会社発展曼陀羅の下の部分、堕落界に転落する社員もでてくる。
責任はうまく他人に押し付け、ノルマなど仕事上の数字は、同僚や部下の成果をうまく横取りして、要領よく書き換える。改革、改善には目を向けず、部下からの提案も極力潰しにかかる。そして経営者にとって最も警戒しなければいけないのは、こうしたマイナス発想の「10年選手」が若手も巻き込んで派閥をつくることだ。
派閥は他力本願体質の社員が徒党を組むもので、大企業にとっては必要悪だと先に書いたが、中小企業の経営者は、けっして社内の派閥を認めてはいけない。もちろん社長自らが「社長派」というような派閥をつくり、人事などで特別扱いするのは厳禁だ。
先にも書いたように「他力本願体質」は伝染する。そしてそれを媒介するのが派閥だ。中小企業には大企業のように資本の蓄積もないし、傾きそうになったときに助けてくれる系列企業もない。業績が悪化すれば一気に倒産してしまうのだ。派閥同士の足の引っ張り合いを許容していくような体力は中小企業にはない。
こうしたほかの社員たちに害をもたらす以外に存在価値のない「10年選手」は、リンゴ箱の中の腐ったリンゴと同じだ。隣り合った健康なリンゴもつぎつぎと腐っていく。その存在自体が罪だという意味で「人罪」と呼ぶべきだろう。
私は自分自身がつくる会社に社員を採用する際には、「30歳までには辞めることを考えてくれよ」と引導を渡すことを忘れない。高卒でも大卒でもいいが30歳というのは社会に出てほぼ10年たつ節目の歳だ。経営者は社員がこの歳になったら、きちんと選別をすべきだ。
幹部として会社の柱となってくれる「人財」と判断したらふさわしい役職を与えるなどして、ほかの社員にも経営者であるあなたの判断を伝えよう。また「人罪」と判断した社員には、本人にとって良い道を提案し、自主的に転職活動するよう促すことだ。