今回は、親族外承継(M&A)後に、買い手との経営統合を進める方法を見ていきます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

取引実行前から「統合の事前準備」を実施

親族外承継(M&A)後に取引が実行されると、形式的には取引はいったん終わりとなるが、組織や機能、業務などの統合作業は、ここからがスタートとなる。

 

買い手による事業価値向上を計画通りに進め、その成果を確実に出していくためには、取引実行後の経営を買い手に統合させていく作業が重要となる。M&Aの目的は、シナジー効果を発揮させ、事業価値を高めることである。

 

自社に不足する経営資源を補完する、あるいは、自社の強みをさらに強化するといった目的もシナジー効果の発揮によって初めて実現する。

 

実務の現場では、M&Aを行ったものの、期待した効果が出せないという悩みを聞くことがある。M&Aに関する調査結果統計を見ても、「統合後の利益拡大効果が期待したほど得られなかった」という回答が多い。

 

このため、取引実行の後の統合作業が重要となる。この点、取引実行までの段階では十分な時間がとれないため、ほとんどのケースでは取引実行後に統合作業を開始しているようである。

 

しかし、経営統合を確実に成功させようとするのであれば、取引実行前から統合の事前準備を行うことが望ましい。特に、その統合作業プロセスと経営管理体制は、少なくとも譲渡契約が締結する前から検討を進めておこくことが好ましい。

早い段階で企業文化の違いを認識し、人材交流等を行う

経営統合を行う場合、「経営方針や経営戦略」といった新会社の最も上位の概念から、「日常業務」の視点や「情報システム」といった仕組みまで幅広く捉えることが求められる。

 

(1)企業文化や組織風土の統合

経営統合の作業として具体的には、買い手の経営陣、経営企画部門の責任者など、通常は2~3名のメンバーでプロジェクトを構成し、まずは経営統合の目的を明確にする。

 

次に、企業文化や組織風土を融合させる方法を検討する。これらについては、ビジネスの進め方に対しての価値観、人材に対する考え方、顧客への対応方針などの理由によって両社の文化が衝突することがある。

 

そうした事態を避けるために、早い段階で企業文化や組織風土の違いを認識し、無駄な摩擦を起こさないように、例えば、組織を統合させる前から段階的な人材交流を行って意見交換を行っておきたい。

 

(2)人事・組織統合

また、人事・組織統合もM&Aでは重要な課題の1つである。「組織は戦略に従う。」をいわれるように、M&Aの目的とした経営戦略に適合する組織を構成することが重要である。

 

人事・組織統合の目的の一つに経営効率化があるが、経理部などの間接部門は1つに統合すべきことには疑問の余地はない。

 

しかし、両社の重複するポジションが組織統合後に2名から1名になるとすると、片方の1人は降格や配置転換をさせられたと感じて、やる気を失ってしまうかもしれない。そのため、配置転換を行う、事業開発部など新しい部署の新設することによってポストを増やすなどの対応も検討しなければならない。

 

このように、人事・組織統合というのは、従業員の士気に影響を与える作業であることから、従来の仕事からの変化を従業員が納得して受け入れて、引き続き活躍できるような配慮や取組みが重要である。

 

この話は次回に続く。

 

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