財務数値を上場会社の財務数値と比較し、価値評価する
類似上場企業比較法とは、評価対象の利益、キャッシュ・フローや純資産などの財務数値を上場会社の財務数値と比較して価値評価する方法である。
これはマルチプル法とも呼ばれており、対象会社と類似する上場企業の株価に対する一定の財務数値の比率を評価対象の財務数値に適用して企業価値(または株式価値)を評価する。
上場企業の公表財務情報および市場株価に基づいて評価額を算定するので、類似性の判断が正しければ、相対的に客観性が高い評価方法である。
上場企業の株価との関連性が高いと考えられる財務数値として、利益、キャッシュ・フロー、純資産などがあるが、市場環境、収益性や事業規模など企業の様々な側面を反映した複数の財務数値を併用するのが一般的である。
一般的な計算の進め方としては、以下の手続きで進められる。
類似会社比較法において最初に行う手続きは、対象会社と類似した上場企業の選定である。上場会社の選定の方法としては、四季報等の上場会社の一覧より対象会社と業種や事業構造、事業内容が似ている上場企業を抽出する。5社程度の上場企業がリスト・アップできればよい。
もちろん、実務的に問題になるのが、類似上場企業が選定できない場合、または少数しか選定できない場合である。
ベンチャー企業や中小企業を対象とする場合、所属する業界自体がニッチであったり、特殊なビジネスモデルを採用していたりする場合も多く、類似の上場企業を選定するのに苦心する。
そのような場合は、強引に類似会社を設定するのではなく、類似上場企業比較法による評価を採用するかどうかを再検討すべきである。
類似上場企業比較法による価値評価は、上場企業の市場株価を利用するとぃう客観性の高さがメリットの1つであるが、選定した類似の上場会社に客観性や納得感がなければ、算出された結果の株式価値にも客観性や納得感が得られなくなる。
次に、類似上場企業の倍率の算定である。たとえば、EBITDA倍率であれば、選定した類似上場企業の時価総額に純有利子負債(=有利子負債-現金預金)および少数株主持分を加算した企業価値から、非事業性資産を控除した事業価値を求め、それをEBITDA(=営業利益+減価償却費)で除して倍率を計算する。なお、非事業性資産が不明な場合は、企業価値に対する倍率を使用することもある。
選定した類似上場企業の財務指標ごとの倍率の平均値(または中間値)を求めることにより、対象事業の企業価値を評価をするための倍率が計算される。
通常は「3つの財務数値」が使用されるが…
なお、多くのM&A事例で使用されてきた財務数値は以下の3つである。
①EBITDA倍率
キャッシュ・フローが企業価値に与える影響、その連動性が最も高いため、その簡易的数値としてEBITDAを使う。事業価値または企業価値との倍率を測る。
[図表]
②営業利益倍率
会社の正常収益力が企業価値に影響を与えている場合には営業利益を使う。これも事業価値または企業価値との倍率を測る。
③純資産倍率(PBR)
会社のストック面の評価が株式価値に近い場合に純資産を使う。これは株式価値との倍率を測ることになる。
ただし、この財務数値の選定において、企業の単年度の数値が赤字(マイナス)であるため、企業価値または株式価値に対する倍率が利用できないことがある。この場合は、売上高などこれら以外の財務数値で評価することも考えられるが、類似上場企業として選定した会社が正しかったのかどうかを再検討すべきであろう。
具体的な計算例としては、類似上場企業の事業価値(=時価総額+純有利子負債-非事業性資産)が50億円で、直近の事業年度のEBITDA(=営業利益+減価償却費)が5億円である場合(=EBITDA倍率が10倍であり、対象会社のEBITDAが1億円であったとすると、10倍を適用した結果の事業価値は10億円(=EBITDA 1億円×10倍)と計算される。
最後に、対象会社の株式価値の算定である。類似上場企業のEBITDA倍率を、対象会社のEBITDAに乗じて事業価値を算出し、会社の非事業性資産を加算した企業価値から純有利子負債を控除し、株式価値を算出する。類似上場企業で企業価値/EBITDA倍率を算出していた場合は、非事業性資産は考慮しない。
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