今回は、企業評価における「類似上場企業比較法」について説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

DCF法に比べ、計算がシンプルな類似上場企業比較法

前述したように、DCF法による価値評価は、理論的には投資回収計算を忠実に反映させた理想的な方法ではあるのであるものの、その計算方法が複雑であるため、親族外承継(M&A)の交渉ツールとしては使いづらい。

 

そのため、親族外承継(M&A)の実務の現場では、EBITDA倍率を中心に類似上場企業比較法を用いて交渉が行われるケースが多い。この評価方法はシンプルであるため、当事者がすんなりと納得するため、使い勝手がよい。たとえば、「類似上場企業のEBITDA倍率が6倍だから、本件取引も6倍で評価するのが妥当ではないか。」と言えば、誰もが納得してしまう。

 

親族外承継(M&A)も交渉相手の存在する取引である以上、理論的な主張よりも誰もが納得できる明快さが重視される局面が多い。そのため、実務の現場では、類似上場企業比較法が重宝されている。実際のところ、欧米のM&Aの交渉現場では、ほとんどの取引において類似上場企業比較法が交渉ツールとして使われている。

 

親族外承継(M&A)において一番よく使用される倍率は、EBITDA倍率である。この倍率が使用される主な理由としては、事業価値(または企業価値)に対する倍率であるため、将来キャッシュ・フローを反映させた事業価値自体の比較を行っているということ、現預金や事業外資産等の保有状況、有利子負債の多寡について考慮していること、またEBITDAというキャッシュ・フロー概念に近く、会計方針処理等の相違の影響を受けにくい数値を使用していることが挙げられる。

買い手側が取得する資産・負債の明細、金額も明確に

純資産法による株価とは、資産から負債を差し引いて算出される純資産を、発行済株式数で除したものである。ただし、親族外承継(M&A)の際には、資産および負債をすべて時価に評価替えした上で計算を行う。

 

公正価値評価の方法の一つである修正純資産法とは、貸借対照表の資産および負債を時価で評価し直して純資産価額を算出し、1株当たりの時価純資産をもって株式価値とする方法である。全ての資産および負債を時価評価するのは実務的に困難なことから、土地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価するケースが多い。

 

個別資産を時価評価する際には、一般的に、その資産の処分価額を用いる。その結果、株式価値は会社の清算価値を反映したものとなる。

 

この方法の長所は、個別資産および負債の積上方式で事業価値が構成されるため、買い手側が取得する資産や負債の明細および金額が明確となることや、会社の貸借対照表をベースに評価できるため、その評価方法が容易であることが挙げられる。公認会計士が実施する財務デュー・ディリジェンスから判明した検出事項を修正純資産に反映させることができるため、客観性のある評価方法といえよう。

 

短所としては、継続企業を前提としていないため、のれんやブランド価値といった無形資産を評価することができないこと、時価が明確でない資産の評価が難しいことが挙げられる。

 

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